ご 褒 美
谷 川 明 江
戦後70年。今年は大きな節目の年。私たちも、戦後と同じように、戦後の貧困、高度成長、バブルと激動な時代と、幾多の山坂を乗り越えてきました。
昨年三・O組は、幹事の皆様のご尽力のお蔭で、再会を喜び、一同を共にして、「おめでとう」「乾杯」と、古希を共に祝い、祝杯をあげることができました。とても嬉しく、感激いたしました。改めて幹事の皆様に心からお礼申し上げます。
私たちが古希を迎えたということは、昭和19年か20年生まれで、その時代は戦争真直下、終戦を迎える前で、親は 戦火の中を乳飲み子を抱え、命からがら逃げまどい、必死に 命を守ってくれました。母から語り伝えられた話では、乳飲み子だった私は恐怖に怯え、ビクビクと震えよく泣いていたそうです。そして戦後の食料難、物資不足の中で、必死に育ててくれました。
あれから60年。還暦を迎え、さあこれから孫と楽しんだり、旅行したりと思い、スタートしましたが、その夢は二年で終わりました。
親の介護の生活が始まりました。88才まで元気で家の中を切り盛りしてくれていた母、ガンと宣告され二カ月入院。命はとりとめたものの、毎日 白い天井ばかりみていた入院生活で 認知症が始まりました。入院前の母とは全然変わってしまい、徘徊、被害妄想、幻覚。自分の思いが伝わらないと噛みつき、引っ掻く、叩く。まるでやんちゃな子供のようで、目まぐるしく変貌してゆく母の姿について行けず、どうやって受け止めたら良いのか、これからどう向き合っていったら良いのか思い悩みました。
冷静になると少しづつわかってきました。五感はあり、喜びの感情、怒りの感情は失われませんでした。つじつまの合わないことを話していても、穏やかにフンフンと頷いて聞いてあげること、感情を高ぶらせないように接していれば、心は安定し、「ありがとうね、世話になるね。」と、感謝の気持を伝えてくれます。心が安定していると食事も美味しそうに 食べてくれ、すべてがうまく運ぶことが、向き合ってゆく中でわかりました。
90歳(7年前)から骨折5回、入退院の繰り返しの日々、
昨年春、腎不全となり手術はできないという状況になってしまいました。最期は家で看とりたいと、在宅診療を決意しました。今日まで、その間、何度も危篤状態に陥り、覚悟したことか。でもしばらくすると症状も落ち着き、穏やかな日々を取り戻すことができるようになりました。諦めないで良かった。生命力のある母は何度も復活。周りの方から
「すごいね、不死鳥だね。」と云われています。
このような介護生活ですが、逃げ出さないで今日迄支えてくれましたのは、趣味の茶道と音楽です。
62才から何か楽器を習いたいと思い、 和 ≠ェ好きなので琴を弾いてみたいという衝動にかられ、お稽古を始めました。少しづつ弾いてゆく中で、琴の前に座った時は、日常の事から離れ集中しないと弾けません。うまく弾けても弾けなくても気分がすっきり、リフレッシュできることがわかり、だんだん楽しくなりました。今の私の生活の中で大切な一時だということを知りました。
今年五月から九月、イタリアで 食 ≠テーマに掲げたミラノ万博が開催されましたが、万博会場日本館で日本の伝統文化を伝えるという項目の中で、日本舞踊、和太鼓、大正琴、お抹茶等の方々と一緒に、私たちの会も、琴の合奏演奏で、愛知県の代表としてラッキーなことに選ばれることになりました。地域の演奏会に出られたとしても、万博会場で演奏できる機会なんて今後はないでしょう。でも今の現状を考えたら行けるわけがない、諦めようと思っていましたが、家族から、こんな機会はそうそうあることではないので、往診の先生に相談するよう後押ししてくれました。勇気を出して、恐る恐るミラノ万博での演奏会のことを伝えました。「何をふざけた事を」と、お叱りを受けることを覚悟して。先生の第一声。「ミラノへ行ってらっしゃい」「応援したい」と、思いもかけずの返事を頂き、「エッ、行っていいですか。」感激の涙ポロポロ・・・・・。 「リフレッシュしていらっしゃい、今まで頑張ったご褒美だよ、帰ったらまたやってあげればいいんだから。」と、温かい励ましの言葉をいただき、母は特別入院をさせていただきました。念願が叶い、八月四日から八月十三日の間、ミラノ万博で演奏しました。日本館屋外ステージで日本の伝統文化、琴の音色をヨーロッパの方々に楽しんでいただけたかと思います。帰ってから、大村知事、河村市長から感謝状を、刈谷市から(先生が刈谷の方)も表彰状を頂きました。
介護を通してこの上ない大きなプレゼントを頂きました。ありがとうございました。
戦争中、母が私の命を守ってくれたお蔭で今があります。これからは私が母の命を守って「生きてるって素晴らしい!」と、母にも周りの方々にも感じていただけるような介護を目指していきたいと心新たにしました。
おわり
イタリア:ミラノ万博、日本館、屋外ステージ(左上は拡大写真)
刈谷市民文化祭・芸能発表会
(2015.8.30)