有る大学の先生が、学生にパソコンを使って数学の問題を解くようにと指示をしましたところ、学生がビックリして「先生、パソコンで数学の問題が解けるのですか?」と言う質問が出たそうです。この質問を聞いて、今度は先生の方が驚いたとの話を聞いたことがあります。
 確かに、最近、パソコンは、文章作成、写真修整、音楽を聴く、動画を見る、ゲームをする、インターネットで調べる、メールをする、ネット通販等々の事に使い、数学の問題を扱う方は少ないでしょう。簡単な計算は電卓やポケコンで。
   一九八0年代末から一九九0年代初めにかけて、文字や画像、動画、音声など、様々な種類・形式の情報を組み合わせて複合的に扱う「マルチメデイア」と言う事が盛んに言われましたが、現在ではそれが当たり前の事となり、「マルチメデイア」と言う事が言われなくなりました。
 昔から、計算を効率よく行う為の努力が行われてきました。紀元前一五0〜一00年のアンティキィラ島の恒星と惑星の動きを計算する為の装置、十九歳の時から研究を始めたパスカルが一六四五年に発明した機械式計算機、昭和四五年販売終了のタイガー計算器をご存知の方も多いと思います。
 昭和二八年(一九五三)に大学入学、西澤潤一先生の指導を受けました。半導体という得体の知れない物を扱う人は変人、コンピューターと言うものを研究している所もあるらしいという時代で、計算は、筆算、数表、有効数字二〜三桁の計算尺の使用でした(個人用電卓は一九七二年カシオミニ以後)。
 ある惑星の軌道を決めるのに、天文学者が昼夜の計算でも十五年を要したと言う。第二次大戦の時、大砲の弾道表(目標距離、気温、湿度、風向、風速に依って砲身の角度、火薬の量を決める)には三千通りの弾道計算が必要で、一つの弾道計算に一人で数十時間、二百名の女性計算手(コンピューター)動員で、表の作成に一ヶ月以上かかった。エニアックは配線でのプログラム変更一週間、計算一時間の予定であったが、完成が一九四六年二月で第二次大戦に間に合わなかった。然し、水爆爆縮の衝撃波の計算を手回し計算機では百年かかると見積もられていたのを、二時間で計算を終えたという。
 「コンピュータが計算機と呼ばれた時代(株式会社アスキー、二00五年発行)」によると、日本で最初に稼働した電子計算機は富士写真フィルムでレンズの設計担当の岡崎氏の開発したFUJICで、レンズ設計に成果をあげる。普通のカメラのレンズを設計するとき、レンズに入ってくる千〜二千本の光線の通り道を計算する必要が有る。対数表を使っての計算では、一人一日で五本〜十本分の計算しかできないという。
   第一世代(熱電子管、所謂真空管を使用 一九五0年代)
   「エニアック」では、重量三十トン、消費電力百五十キロワット、その稼働状況は、開発者の一人、エッカートは真空管のフィラメント電圧を通常より低い電圧にする等の工夫で、週に二〜三本の真空管の故障に押さえたと言います。
   第二世代(トランジスタを使用 一九六0年代前半)
   グラハム/ベルの電話の基本特許が一八九三年に切れ、六千社が電話産業に参入したと言われます。ベル電話会社から発足したATT社が、激しい競争に対処する為、大陸横断長距離電話の実用化と保守費用の低減であった。長寿命、高信頼性の増幅器を固体で実現というのが、ベル研究所の課題の一つとなり、十年以上研究が続けられ、ショックレーをリーダーとするブラッテン、バーディーン達のチームが、点接触型トランジスター(一九四七年)、接合型トランジスター(一九四八年)を発明した。真空管とトランジスターとを比べてみると、その大きさ、一素子当たりの使用電力も、トランジスターの方が格段に小さくなります。この発明無くして、現在のパソコン、デジタルカメラ、スマホ等は無いでしょう。
 第三世代(千個位の素子・トランジスターの集積回路使用一九六0年代後半)

  第四世代(十万トランジスター以上の素子を含む大規模集積回路、VLSIを使用一九八0年代前半) 性能が、第一世代から第四世代の間に約一万倍向上、価格が約十万分の一に低下しています。
 第五世代(一九八二年通産省第五世代コンピュータ開発計画実施、一九九二年終了。成果の評価は分かれています。
 初期には利用者がプログラムを作るのが普通でした。ミニコンの価格が約千五百万円、使用場所の温度・湿度を管理する為にエアコン付きの部屋も含めて、全体で二千万円を超えています。メインメモリがワイヤメモリーで、三二キロバイトでした。少し、難しい計算を行うとエラーが出ました。
   一九五二年頃、米英、オランダ等が「国際計数センター」計画を打ち出した。核開発や天気予報等の高度な計算処理を行うコンピュータは、ローマに一台あれば当時の需要を満たせるというものです。日本も条約会議に参加して調印、コンピューターは世界で数台有れば事足りると言う雰囲気があったようです。
  又、当時、三十五歳以上の人コンピューターを使うのに必要な技術、特に機械語の習得が出来ないから、コンピューターを使えないと言う事が言われていました。
 「パーソナルコンピューター」という言葉が使われたのは、米国では一九六二年日本では一九六九年。一九九三年、Windows3.1発売、フロッピーディスク十五枚、インストールが大変でCD版を購入した方から借用しました。ライセンス認証はWindowsXPから導入です。
   「日経パソコン」一九九八年新年合併号で、ソニーの出井社長が「Windowsの今の路線では、世帯普及率は四十%パーセントが限界」との見解を述べています。その理由は「使うのが難しい」、「一般の利用者には不要な内容がある」を挙げていますが、現在の普及率は約八十%以上です。
 初期のパソコンが五十万円台、日本語の文書が作れない等の事も有りました。漢字かな交じりの日本語を扱える初のワードプロセッサーが一九七八年、東芝から六百三十万円で発表され、米国国防省が資金を提供して開発した「アーパネット」が一九八三年に「インターネット」として公開され、世界的な通信網が出来ました。
   パソコンは計算以外の用途を志向して開発されたが、その背景には、「パソコンの飛躍的な性能向上」、「インターネットの公開」、「パソコンの価格低下」、「一九八八年頃からデジタルカメラの利用開始」等が挙げられます。
  Windows7以降、メインメモリーで一GB以上が必要、一ギガは十億ですが、一バイトに八個の素子、で、八十億個の素子が必要です。これを真空管で構成すると、真空管の一本当たり一ワットの消費電力と仮定して八十億ワット。換算すると八百万キロワットとなります。福島第二原子力発電所の原子炉六基の合計発電能力が約四百七十万キロワットです。  
 半導体という固体の利用なので、フィラメントが無く長寿命、低電圧で動作し低消費電力構造が比較的簡単なので小型化が容易で高速化が出来る等の特長を持っています。今後、照明も白熱灯、蛍光灯を廃止、LED照明に代わる方向です。
 二千年代では、素子数(CPU)が、五千万〜二億個、回線幅0・一八〜0・一三ミクロン(マイクロ)と言われています
 髪の毛の平均の太さ0・0八ミリメート、八十ミクロンメートルと、回線幅とを比較してみます。
   回線幅を0・一三ミクロンメートルとし、回線と回線との間に同じ幅の隙間があるとすると、0・二六ミクロンメートルで一本の回線が引け、髪の毛の太さ、八十ミクロンメートルには約三百八本の回線が引けることになります。
   高密度化は半導体素子だけでは無く、その他の装置でも進みました。初期のハードディスクは百メガバイト単位の容量でしたが、現在の容量はテラバイトと約一万倍ですが、装置全体の大きさは、少し、小さくなっている位です。
 他に、一つ、最近、ハードディスクが使いやすくなった事が有ります。最近のハードディスクは、USBケーブルでパソコンに接続する直ぐに使用出来ます。一九九0年頃は、マニュアルが四冊、計三百十四頁、全部読む必要は無いのですが、パソコンにハードディスクを接続するのは一仕事でした。
 また、当時、他のパソコンと通信しようとする時は、「パソコン通信」を使いましたが、これも、一仕事でした。
 私が個人で最初に買った「ノートパソコン」と言うよりも「ラップトップコンピューター」ですが、発売が一九九0年五月、重さが十キログラム、価格が五十三万八千円、でした。
 一九九0年頃の、この様な状況では、パソコンは余り普及しないだろうと、ソニーの出井社長が言われたのも、当然だったでしょう。加減乗除と開平の出来る電卓を会社で四十万円で購入、個人所有は夢でした。
 現在、パソコン利用でインターネットの利用が大きな役割を持っています。個人的利用に限らず、社会的にもインターネットが重要で有る事は、和田著「国家とインターネット(講談社・二0一三年四月)」の出版、「クローズアップ現代・新産業革命?“モノのインターネット(
IoT)”の行方(NHK/二0一五年五月二八日放送)」等からも解ります。インターネットは、国の根幹に関わってきていると言えます。現在、重要な技術の一つに光ファイバーが有ります。昔の話ですが、西澤先生が或る学会で光ファイバーの開発構想を述べられた時、ある大学の先生が「窓ガラスを数十枚重ねると光は殆ど通らなくなる。ガラスみたいな物を使って通信しよう等と考えるのは馬鹿げている」と言う主旨の発言が有りました。世界一の透明度の田沢湖と云われましたが、透明度が、湖岸工事による汚濁で、約五分の一に減少した例があります。光の吸収損失を減らす技術、光が外に逃げる損失を減らす等の開発で実用化されました。
  
  テレビ電話の可能性も否定されていました。
   また、一つの半導体(シリコン)の上に、百万個以上の素子を作る事は不可能との意見が有りましたが、一九八六年に百万素子の集積回路が登場し、現在は一千万素子以上の集積回路が実用化されています。
 パソコンを使う時、気を付けて頂きたい事が有ります。
   一つは、大切なデータ、写真は、パソコン以外の別のものに保存される事をお薦めします。二重保存は無駄な様に見えますが、パソコンも機械、何時、壊れるか解りません。
   二つ目は、安全性、セキュリティです。
 その一番目は「詐欺」です。甘すぎる話には注意しましょう。「◎◎会の名誉会員に推薦されました。お引き受け頂けますと、一時金三千万円、月額報酬二百五十万円」等です。
   二番目は「脅し」に近いものです。一つ目は装置に関するもので、「お使いのPCがクラッシュ(壊れる)寸前です」、「ハードディスクの容量が少なくなりました」等の警告が出ても、驚かないで、パソコンに詳しい方に相談しましょう。二つ目の「脅し」は、覚えのない利用料金・会費等の請求で、「裁判になります」等が書かれていても、覚えが無ければ無視、電話やメールでの連絡、問合せは絶対にしない事です。
   三番目は「悪さ」をするソフトウエアの侵入です。然し、次の五項目を実施すれば、心配する事は有りません。
   @ 総合型セキュリティソフトのインストールとその更新
   A Windowsのアップデート
   B ファイアウォールの導入 〔 ルータの利用 〕
   C 大切なデータのバックアップ
   D 知らない人からのメール、特に添付ファイルを開かない

   私の場合、一九八一年に使い始めたソード製のパソコンから数えますと、約三十五年間、経過、その間に、詐欺的な利用料の請求、裁判等の脅しのハガキやメールを数回受け取りましたが全部無視で、特に問題有りません。普通の対策をとり、甘い話には乗らない、覚えのない脅しは無視で安心してパソコンを使うことが出来ます。
   パソコンではありませんが、電話機能を持つ小型コンピューターとも言われる、スマートフォン、略称[スマホ]等について、気になる事を挙げて終わります(一〜四朝日新聞)。
 一、
学校パソコン増→成績低下(二0一五年九月十五日)
  二、スマホ首    (二0一五年十月十一日)

  三、
 携帯依存 親は知らない危険(二0一五年七月十七日)
  四、スマホデビュー親の心得 (二0一五年四月十二日)

  五、所さん大変ですよ 世にも不思議な鉛筆物語

   HBでは文字が薄く読めない、瓶の蓋を開けられない

                       (NHK、二0一五年五月十四日)

   
 六、小学生に人気の習い事 プログラミング
                       (NHK、二0一五年七月九日)

  七、ソーシャルメディアの何が気持ち悪いのか?

  (香山リカ著、二0一四年六月三十日、朝日新聞出版)
編者注: 丹野先生は高専の私の前任者で、今日まで長い間多方面にわたりご指導いただいております。傘寿を超えられた今もパソコン教室を開講され、教育、指導に精力的に取り組まれていらっしゃいます。大変お忙しい先生にパソコンの面白さについての執筆をお願いしました。



パソコンへの招待に関連して調べた事
   パソコンが「計算機能」だけの「単能機」から、現在の様な多彩な用途に使われるようになる、所謂、「マルチメディア」に対応する為には、パソコンの性能向上が必要でした。少し、技術的な話になりますが、簡単に触れてみます。
  アルファベットと数字だけ取り扱う場合ですと、大文字・小文字、それに多少の記号(=、?、!、#、%等)を含めても百種類前後を扱うだけで十分です。
  日本語を扱うことを考えると、大分、状況が変わってきます。扱う文字の種類が、前記のアルファベット・記号の他に、カタカナ・ひらがな、漢字を扱うことになります。小中学校の学習指導要領によると二千百三十六文字です。漢和辞典には約五万の漢字が記載されています(中国では約二十万文字)。

          

       

 更に、デジタルカメラの写真を扱うとすると、より大量のデータを扱うことになります。デジタル写真は下図に示します様に、多数の「画素(ピクセル)」で表示されます。
例えば、六百万画素(二八三二×二一二八)、一千三百万画素(二八三二×二一二八)等です。それらの一つ一つの画素

 

 

  半導体関係で、「ムーアの法則」が有ります。その内容は「集積回路(IC)に載せられる素子の数は、十八ヶ月〜二十四ヶ月毎に倍になる」と言う経験則です
   更に「ムーアの法則」を、レイ・カーツワィル(現在、グーグルに在籍)が拡張して提唱した「収穫加速の法則」が有ります。「技術指数関数的に発展し、進化の速度は本質的に加速していく」という経験則です。それに関係する図を下に示します(資料5〜6)。
カーツワイルはパラダイム・シフト(ものの見方や捉え方が革命的・非連続な変化を起こす事「例:天動説→地動説」)が起こる率が十年毎に二倍になっている事を主張(下のグラフ)
技術の発展が続くと、二0四五年頃に人間の脳の能力をコンピューターが超え、自律的に行動するロボットが出現する等の問題発生可能との予想から、「バラ色の未来」、「人類絶滅の危機」等、「二0四五年問題」として、討議され始めました(資料5、7、8、9)。
   産業革命時、機械に仕事を奪われるとして「ラダイト」暴動等が発生していますが、人工知能の場合は、頭脳作業の置き換えに伴う失業問題、人間の脳の能力をコンピューターが超えたら、それを人間が制御出来るのか等の問題提起がされています。
   一九三八年ラジオドラマ宇宙戦争(ウエルズ)放送での火星人襲来のパニック騒動では大きな実害はなかった様ですが、「ホワイトハウスで二回、爆発。オバマ大統領が負傷」とのデマがツイッターで発信され、ダウ平均で百五十ドル急落の例があります。(資料8)。誰でも情報発信が出来る時代、エイプリルフールをネットで発信等は自粛が望まれます。
   資料8に依ると、米国での証券取引の七割が「自動取引システム(超高速取引、ボットによる取引)」に依ると云われています。池谷裕二脳研究者が次の様な文章を書いています(資料11)。【人生に思い悩みメンタルクリニックに行くと、窓口で質問されます。「相談相手は人工知能がよろしいですか。それとも生身のカウンセラーがよろしいですか」ハーバード大学のボハノン博士によれば、最近は人工知能のカウンセリングを選択する患者も少なくないそうです。】創業百年の布団屋が閉店とのチラシが入っていましたが、今後は「インターネットショップ」で販売との説明付きでした。今後の社会のあり方を考える時の一つの材料と言えます。
   インターネット、ソーシャルメディアについての資料例を表として挙げておきます(次段)。

   スマートフォンは、電話機能を持った小型コンピューターと言われ、色々な機能を持ち小型で便利な装置です。スマートフォン自体に罪は無いのですが、スマホ依存症迄いかなくても、読書時間が減り、物事にじっくり取り組んだり、考えを深める時間が殆ど無くなってきていると言う(資料7)。又、歩きながら、時に、自転車に乗りながらスマートフォンの使用等、社会常識に合わない行動の人もいます。更には、「スマホ首」、「スマホ老眼」、「スマホ不眠」等、身体への影響も出てきています。
利便性とその裏、それを使う人の利用の仕方、周りの人や社会への対応、私がいると共に他の人もいる、コストパフォーマンス以外の事も考える事が大切と思います。
二0四五年問題」以前に、既に、人が機械に依存・支配される傾向が出始めているとすると、利用者がそうした事を意識し、どう対処するか、規制ではなく、自律的に対応する事が望まれます