2010年10月に上海のＴＶで放映されたドラマです。
舞台は、上海万博を目前に控えた前年から2010年春先の上海。少し雑然としながらも活気に充ちた街の生活が窺えます。

主人公は、文化大革命時に上山下郷運動（毛沢東の指導によって発動された、都市部の中高生、知識青年層を地方の農村に送り、思想改造をしながら、国家建設に協力させることを目的とした運動）に呼応して中国の東北 黒龍江省に下っていた上海生まれの元知識青年の夫と、黒竜江省育ちの妻。
老いた母親のために30年ぶりに上海に戻った彼らが、習慣のまったく異なる大都会で、いかにゼロから新たな生活の基盤を築いていくか、という中国らしいドラマです。

その純朴な主人公夫婦が、新たな職業として選択したのが、ドラマタイトルでもある「月嫂(yue4 sao3)」。
中国独自の文化で、出産後ひと月～数ヶ月の女性と乳児の面倒を専門にみる一種の家政婦です。
月嫂の文化を知るだけでも、このドラマ、見る価値があり。

上海に戻った熟年夫婦にあらたに生じる嫁姑問題や、都会の人間関係に慣れない夫婦の人間模様、都市と農村の生活格差、８０后（パーリンホー）に代表される贅沢な甘えの構造、都市化に合わせて弄堂（nong4 tang2≒上海の路地）の立ち退きで高層住宅が分配される事情etc.も興味深いところです。

妻役牛丰收（いかにも農村の働き者的ネーミングですね）を演じた倪萍は素顔で出演しているようです。他の作品を見てみないと、彼女が化粧するとどうなるのかは、何とも言えません…。でも、迫力があります。


さて、ストーリーですが、
上海万博開催で、ますます意気軒昂な大都会上海。この街に、黒竜江省から30年ぶりに、知識青年として地方に派遣されていた江茂林(张秋歌)と、その妻牛丰收が戻ってきました。長男である江茂林が、老齢の母親の心臓病の持病を心配してのことでした。
でも、江茂林の母親は、田舎者の牛丰收をずっと息子の嫁と認めていません。江茂林も母親に気兼ねして、3年前には手紙で「牛丰收とは離婚した」と伝えていました。母親は戻ってくる息子のために、彼の幼馴染みの白玉莲(叶童)を嫁に迎えようと画策しています。

兎にも角にも母親と弄堂の立ち退き間際の狭い長屋に同居することになりました。
ところが、農村で暮らしていた５０歳近い夫婦には、都会で仕事に就くことすら難しい。事務職を希望していた江茂林は、仕方なく月給１０００元にも満たない交通指導員として交差点に立ちます。中学も出ていない牛丰收は、オフィスビルの清掃の仕事に就いたものの、1週間も経たないうちに騒ぎを起こしてクビになってしまいます。

都会に出てきた女性地方出身者の代表的な仕事が、「保姆bao3 mu3≒家政婦」か「月嫂(yue4 sao3)」です。とくに「月嫂」は、一人っ子政策の申し子で、優秀な月嫂は引く手あまた。月給２０００元は堅く、トップクラスになると、白领顔負けの月給８０００元も取る女性もいます。江茂林の幼馴染みの白玉莲も、その一人でした。
彼女に奨められ、牛丰收も月嫂になるべく、訓練センターに通うことに…。

実は牛丰收には、結婚前の非常に辛い“秘密”があって、乳児を扱う月嫂という職業に大きな抵抗感を抱いています。赤ん坊を思い浮かべると、忌まわしく悲しい過去が脳裏によぎり、平常心ではいられません…。
そんな彼女が、果たして月嫂の試験に合格し、いかに都会の現代的な家庭の顧客たちに認められていくのでしょう…。


※「月嫂」についてドラマ中で、アメリカ育ちの外資系に勤める出産間際の精英（jing1 ying１≒エリート）が友人の産婦人科医と語っている件が、月嫂とは何かを紹介してくれました。

「国内方兴未艾的职业, 就是在月子里服务的女工。在美国和西方很多国家根本没有月子这个概念, 我觉得是在社会生产力低下的农耕时期女人为了提高自己的社会地位或者是想休息了, 自己给自己创造出了一种所谓的假期吧。」
（中国で一番流行ってる職業が、この産後サービスをする女性ね。アメリカや西欧には、月子（yue 4 zi≒産後のひと月）まったくない概念だわ。それは、むかし出産の危険性が高かった社会が遅れていた農耕時代に、女性が自分の存在を高めたかったからか、もしくは休みたかったからじゃないの？ 自分への一種の「休暇」を作りたかったにすぎないのよ。）

「月子文化是一代又一代的中国妇女以自身代价总结的经验。当然这和不发达的经济和落后的生产条件有关系。现在大家都生一个孩子, 所以对月子更重视, 月子很快就会形成一支产业链。」
(でもね、月子文化は何世代もの女性たちが身をもって証明した経験よ。もちろん遅れた経済とか出産条件にも関係あるでしょうけどね。いまは一人っ子の時代だから、月子はさらに重要視されている。月子が産業リンケージを形成するのも、いまや目前ね。）


日本にも「月嫂」の制度があると、女性にはホントー嬉しいですけど…。