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風聲 The Message
★★★☆☆


道理で、昨年(2009年)中国建国60周年の国慶節を前に封切られた作品です
第二次世界大戦中の汪兆銘政府(中国ではこういう表現はしないのでしょうけど)&日本軍と、抗日スパイの諜報戦を舞台に設定したミステリー仕立て。最後の周迅扮する顧暁夢のタネ明かしが無ければ、エンターテイメントとしてはもっと一般的に面白かったかも…とも思います。共産党万歳的なところが棘のように突き刺さりますが、これも現在の国家としての大中国の一面と見れば興味深い。

原作は麦家の長編小説「風聲」。監督は“双瞳 Double Vision”の台湾の陳國富と、中国版“東京裁判”を撮った中国の高群书。脚本は陳國富。音楽担当は日本人の大島ミチル。さらにプロデューサーに中国のヒットメーカー映画監督、馮小刚が名を連ねています。さすがに建国60周年を睨んだ国策映画です。

とはいうものの、ミステリーやホラー映画の経験がある陳國富監督ならではの演出か、二重、三重に仕掛けられたトリックで息も着かせぬ展開は、よく出来ています。ちょっとホラー色が濃い目で、拷問シーンが少し生ナマしいですけど、映像クオリティもさすがです。この辺は娯楽映画としても楽しめます。


ストーリーは
舞台は1942年、親日の汪兆銘政権下の南京。日本軍や汪兆銘政権の要人が次々と襲われる抗日テロが頻発。犯人を必死に追及する日本軍特務機関と汪政権軍関係者。どうも「老鬼」と呼ばれる人物がテロ組織のボスらしいと、必死に捜索しますが、まったくその正体がつかめない…。

日本軍特務の武田少佐(黄晓明が扮してますが、神経質そうなエリート日本軍人の感じが面白い)は、内部に情報を流しているスパイがいると疑い、その人物を特定するため、「日本軍、汪政権軍の要人がいついつどこどこで会合を開く」というニセ情報を流します。果たして、抗日地下組織はその日時にテロを仕掛けるよう指示。どうやら抗日スパイは、軍の機密を扱う軍機処の5人の中にいる…

さっそく軍機処の5人を要人接待用の別荘に呼び寄せ隔離します。いよいよ武田少佐汪政権特務の王田香(王志文が演じてます。この人は姑息な役が実に上手いですね)のあの手この手の追求が繰り広げられることになります。隔離されたメンバーは、通訊員顧曉夢(周迅)、暗号解読専門家李寧玉(李冰冰)、隊長呉志國(張涵予)、総司令副官白小年(苏有朋)、そして軍機処長金生火(英达)の5人。

果たして「老鬼」はこの中の誰なのでしょう
果たして抗日地下組織のスパイは、ニセ情報であることを外部の仲間に知らせ、この危機を無事脱することができるのでしょうか
武田+王田香VS抗日スパイの心理戦が、映画の骨筋です。


汪兆銘については、社会科の勉強ではスッ飛ばしがちだと思いますので、以下おさらいしておきます。

1903年:清朝の国費留学生として日本の法政大学に入学。
1905年:同郷の広東人である孫文が来日して中国同盟会が結成されると、は機関紙「民報」の編集にあたります。辛亥革命の成功後は孫文の片腕として活躍。
1925年孫文の死後は、頭角を現した若輩の蒋介石に首座を奪われます。
1932年満州事変の後、蒋介石の補佐として首相兼外相に就くも、汪兆銘対日平和政策は強い反対を受けます。

日中戦争がはじまった頃、汪兆銘は国民党副総裁に就任し、徹底抗戦を主張する蒋介石に対し日本との平和交渉の道を探ります。彼には「一面抵抗、一面平和」という哲学があったともいわれています。しかし戦局が激しくなった1938年末、蒋介石との対立がもとで汪兆銘はハノイへ脱出。

1940年:日本軍を背景に蒋介石とは別に新たに南京政権をつくます。 これが汪兆銘政権です。新政権は誕生したものの、の意図していた蒋介石国民政府との和平は実現せず、戦争は継続されました。
1941年12月8日太平洋戦争勃発。汪兆銘政権成り行き上、日本とともに戦争に参加することになってしまいます。

そして1944年11月10日、かつてハノイで狙撃された弾丸の破片がもとで多発性骨肉腫により手術のかいなく、名古屋大学付属病院にて客死。
この死因については、以前上海のTVで「戦況の劣況を鑑みた日本軍が、汪兆銘政権から蒋介石政権にパートナーを乗り換えようと意図して殺した」とする日本による暗殺もありうる…ような内容の歴史探訪番組を放送していました。

ともかくも、中国近代史の中では「漢奸」(裏切り者)のレッテルを貼られている人物です。

監督:


出演;
    

陳國富
高群书

周迅
李冰冰
张涵予
黄晓明
王志文
英达
苏有朋 etc.