中国四大名著のひとつといわれる「紅楼夢」(他は、三国志演義、水滸伝、西遊記)の2010年版TVドラマです。
全50話とやや長め(笑)。
ヒロイン林黛玉役の大々的オーディションなどでさまざまな前評判を演出した同作品ですが、その割りに大陸での評判はあまり芳しくありません。林黛玉の顔がふっくらしすぎてるとか、グラマラスなはずの薛宝钗がスリムすぎる云々…。
「紅楼夢」は過去幾度も映画、TVドラマ化されています。おそらく、古典に関心の高い視聴者が中高年の女性層であることから、過去、とりわけ大ヒットした1987年版「紅楼夢」の印象が彼女達の脳裏にいまだ色濃く残っているためかとも思われます。
個人的には、“不错”だと思います。
87年バージョンは、感情表現が露骨すぎませんか?
★3つの理由は、原作を読んでいないと、なかなか充分堪能できないためです。かつて中国の女性は子供の頃から、水滸伝や三国志演義が男の子が好んだように、お伽草子で「紅楼夢」に馴染んでいたようです。中高年以上の女性は、日本人が「源氏物語」の登場人物を熟知しているように、10人いれば10人それぞれの登場人物像を持っています。
原作は、清朝中期乾隆帝の時代(18世紀中頃)に書かれた中国長篇白話(話し言葉)小説。
作者は曹雪芹とするのが定説になっていますが、別人説もあるようです。
また物語の構成が、天上界の小石のひとつが、この世に降り立ち、人の姿に化して現世のままならぬ情を体験して、また天へ戻って行く…、そして石に戻った彼が日々を回想して石である我が身に綴ったのが、この長編小説であることから、かつては「石頭記」とも呼ばれていました。
ストーリーは、
太古、神々の戦いで破壊された天を、女媧(中国神話の女神)が地上の石で繕いました。でも、一つだけ使われなかった石があります。大荒山の無稽崖、青埂峯に捨てられた石。石は役立たずの自分の不遇を悲しんでいました。
そこへ、僧侶と道士が現れます。石の近くに腰を下ろし、人間界の栄耀富貴の話しています。関心をそそられた石は「どうか下界に連れていってください」と必死に頼みました。
物語の主人公の一人、貴公子贾宝玉が生まれてくる際口に含んでいたのが、通霊宝玉と形を変えたこの石でした。
贾宝玉自身、前身は天上界の太虚幻境というところの神瑛侍者で、毎日、霊河のほとりの絳珠草に甘露をかけていました。おかげで絳珠草は草木の姿を脱して仙女のになりました。そしてもちろん、現世に生まれ落ちた贾宝玉にそんな前世の記憶は一切ありませんけど…。
神瑛侍者が下界に降りたことを知った絳珠草も「甘露のお礼をしなければいけない。あの方が人間になった以上、私も人間になって一生に流す涙でお返しましょう」と、自身も下界降ります。彼女が悲劇のヒロイン林黛玉になります。
他の仙女たちも前後して地上に降りて行き、もう一人のヒロイン宝釵はじめ元春、迎春、探春、惜春、李紈、熙鳳、巧姐、湘雲、可卿、妙玉等になりました。
彼らが降りたところが、物語の舞台となる当代きっての富貴を誇る都の大貴族、賈家(栄国邸と寧国邸)。みんな、賈家の親族となって登場します。
賈宝玉は幼少から女の子と遊ぶのが大好きで「女の子は水でできた清らかなもの、男は泥でできた濁物」と決めつけています。立身出世や科挙に関心を示さず、官僚たちを「国賊」「禄盗人」と蔑みます。しかし、祖母・史太君(賈母)の寵愛を一身に自由奔放に育ちました。
TVドラマの前半は、この賈家の虚構に満ちた栄華とともに、彼らの艶やかな宴会で綴られる日常生活を謳いあげています。でも、いつしか賈家の経済と命運は音を立てて崩れていき、彼女らは悲劇的結末を迎えることになります…。
賈宝玉の周りには、ひときわ器量の優れた父方の従妹林黛玉と母方の従姉薛宝钗がいました。ふたりの境遇・性格は対照的でした。
宝釵の家庭は豪商で、母や兄がいます。周囲に卒なく、常識を慮るしっかり者でもあります。
一方、黛玉は父母を亡くし、賈家に身を寄せる他、生きるすべがありません。性格は神経過敏で何かと意固地。悲観的で日々泣き暮らしています。
俗っぽく言うと 宝玉をめぐる黛玉、宝釵の三角関係が物語の大きな柱です。
太虚幻境の因縁により互いに惹かれあう宝玉と黛玉。でも、通霊宝玉を持つ宝玉は、金玉の縁で金の首飾りをもつ宝釵と結ばれる運命にありました。黛玉は涙を流し尽くした挙句にその使命を終え、宝玉と宝釵の婚礼の時刻に息を引き取ります。
宝玉は宝釵と結ばれたものの、夢で太虚幻境を訪れ、すべてのの因果を悟ります。科挙に出掛けた日を最後に、家と宝釵を捨てて出家し、行方知れずに…。
水滸伝や三国志演義がはっきりした「義侠」「正義」を貫く物語性があるのに対して、紅楼夢はいわゆる「情」の叙述で、人や時代によってさまざまに受け取られそうです。そこが紅楼夢の深さでもあり、面白味なのでしょうね。
ちなみに、かつて「中国の庭園って、なぜ同じような建物がたくさん配してあるのだろう?」って不思議に思ったことがありましたが、紅楼夢を見て、なるほど。富豪の大家族は、こうして暮らしていたのだなあ、と…。
|