文  化 東京港区 中国語サークル 北京倶楽部

西蔵往事 
★★★★☆


2011年4月に公開された大陸の若手女性監督戴玮の作品。
太平洋戦争中のチベットを舞台に、2つの愛情(チベット女性とアメリカ人男性の人種を越えた愛情、奴隷の愛情)を描いた物語です。

チベットといえば、昨今ニュース等で耳にする“チベット自治区での騒乱”とか、インドに亡命政府をたてたダライラマ法王が思い浮かびます。
チベットには1949年以前、確かにレッキとした2000年以上の歴史と文化を持つ独立国家が存在していました。
でも、宗教で覆われた因習と奴隷制度を礎にした、罪無き多くの民衆を愚かにも貧しい生活に置き去りにした奴隷制国家だった、とは現在の中国の主張ですね。逆側から見れば、結果、精神的、政治的リーダーであったダライラマを追い出し、貧困に苦しむ大多数のチベット民衆を解放したのが中国共産党であり、現在の中華人民共和国だったとも言えます。

本作品の舞台は、まだチベットが独立国家だった頃。
抗日戦争
時、アメリカ軍イギリス軍の援軍がチベット空域を経て物資を重慶の国民党軍に運んでいた頃の話です。

とにかく、濃い空色と淡い草原、薄雪に覆われたヒマラヤ…、チベットの大自然が画面いっぱいに迫ってきます。そして、哀愁を帯びた音楽、信仰深い民々の巡礼・・・。

チベットの貧しい女性を演じるすらりと背丈のある宋佳の姿が峻然として非常に美しいです。
ちなみに女性監督の戴玮は、漢民族です。


ストーリーは
1942年より、時は太平洋戦争の真っ最中、アメリカ軍は蒋介石の抗日戦争を支援するため、インドからヒマラヤ山を越え、雲南、重慶に大量の物資を空路輸送していました。その中で、険しい山々と天候に阻まれ1,500機以上の輸送機が墜落、3,000名近いパイロットたちが犠牲になったそうです。

1944年11月、アメリカ人パイロット、ロバートJoshua Hannum)の輸送機も機体の整備不良からチベット上空で墜落してしまいました。運よくチベット部落の民に助けられましたが、当時のチベットの民は皮膚の色が違う西洋人を見たことがありませんでした。部族の長は、部落で妖女扱いされ村八分になっていた雍措宋佳)にこの厄介な外国人の面倒を見させます。
そもそも雍措は夫を事故で亡くしたばかりで、しかも彼女が飼っている山羊が狼の腕を銜えて戻ってきたのを見たラマ僧が彼女を“妖女”だと罵ったことで、部落民から理由なく忌み嫌われるようになっていたのです。部落民から相手にされない雍措は、孤独と貧しさの中で、次第に言葉も通じないロバートと気持ちを通わせるように・・・。

そんな時、殺人犯の西洋人を捜索する国民党の役人がチベットの別の部落にやってきます。
役人は長に捜索を命じますが、誰も凶暴な殺人犯の西洋人の捜索など行きたくなく、結局、勇敢で実直な一人の農奴の若者江措何润东)に押し付けます。主人から「万事うまく殺人犯を捕らえてきたら、自由の身にしてやろう」と言われた江措は、愛する央金朱子岩)と結婚するために任務を尽くそうと・・・。雄大な大草原が広がるチベット高地をひたすら、探索に出かけます。

西洋人など見慣れないチベット辺境です。ロバートのいる部落に辿り着いた江措たちは、彼こそが殺人犯だと捕獲しようとします。雍措は必死で彼を庇い逃しますが・・・。
農奴の江措には決定権も判断する自由も一切ありません。ロバートを殺したくはないが、恋人との結婚のためは主人の命令に従わざるを得ません・・・。


二つの悲恋の話ですが、舞台がもっと以前、宋や唐の時代に設定していたら何の偏見なく、単純に異文化間に生まれた愛情と、出生により致し方ない生き方として、より感情移入しやすかったかもしれません。どうしてもチベット自治区の政治的問題が脳裏をよぎってしまいます・・・。
世界の潮流と政治に翻弄されるチベット民族の悲しさは、美しい風景だけに一入ではあります。

監督:

出演;
    

戴玮

宋佳
Joshua Hannum
何润东
朱子岩
包小柏 etc.