幕末・明治維新略史

HOME > スマイルズ自助論

抄録スマイルズ

“Self-Help”1858,(中村正直訳『西国立志編』原著1867年版の訳、明治4刊)講談社学術文庫

 「しばしばみずから成就したるし諸人の遺範を講述し、人おのおの大小に限らず、自己に頼りて、万事をなすべきことを語り聞かせ、および、「後来の福祉安寧を望まば、各自一箇の人、ただ自己にのみ依頼すべし。つまびらかにこれを言えば、自己の勤勉なる自修の力、および自己の定むる規法、およびみずから検束する行事に依頼すべし。なかんずくその最要なるものは、人たるもの、おのおのその職分を尽くすに、正直誠実なるべし。これ男子品行の尊栄なるものなり」と、これらのことを諸人の例を引いて、指し示したりき。この教訓はソロモンの箴言と、全く同じくして、少しも新しきことなく、また別に作りだしたるものなし。」(第1版序(スマイルズ自序) p.46)

 読者の誤解を解いておきたいことがある。「もし人ただ表題によりて、セルフィッシュネスと混交し、みずから私することを賛美するの書なり、と思うときは、作者の意とまさに相背反することなり。辛苦を厭わず、淡薄をもってみずから奉じ(あるいは清廉の節を守ると訳す)、ついにその志業を成就し、自己の功労に倚仗(いじょう)してこの世に自立し、ひとえに他人の扶助恩顧に倚頼すべからざることを勧めんがために、この書を作るといえども、文人、学士、工芸の人、新術新器を発明する人、教育をつかさどる人、仁慈のことを行う人(フィランソロピスト)、伝道のために遠方に行旅する人、伝道のために身を殺して仁をなす人、これらの人の遺せる標準典型によりて観るときは、そのみずから助くるの職分を尽くすの中に、他人を助くるの意は、おのずから包含すること明らかなり。」(自助論原序 pp.48-49)「人あるいは功なくして敗るるものあり。しかれども、善事を企てて成らざる者は善人たることを失わず。ゆえに敗るるといえども貴ふべし。・・・ゆえに人のことをなすは、善悪如何、と問うを要す。その跡の成敗のみを観るべからず。しかりといえども、・・・およそ事の成就するは、人の定志あり、勉力あり、忍耐あり、勇気あることの結果効験なり。」(pp.49-50)