幕末・明治維新略史

HOME > ミュルダール価値前提

抄録ミュルダール

『経済学説と政治的要素』1955(山田・佐藤訳)(紹介)

(英語版への序文)
 「本書を通じて次のような観念が潜んでいる。

 すなわち、あらゆる形而上学的要素を徹底的に切り捨ててしまえば、一団の健全な実証的経済理論が残り、そしてそれらは価値判断からまったく独立であるという観念、これである。そうならば、選択された一組の価値前提Value Premise を、単に、事実に関する客観的な科学的知識に付け加えさえすれば、政治的結論を推論することができるであろう。一団の科学的知識があらゆる価値判断から独立に得られるというこの暗黙の信念は、今の私が見るところでは、素朴な経験主義である。

 事実というものは、ただ観察によって概念や理論に組織化されるのではない。なるほど、概念や理論の枠がなければ科学的事実はなく、混沌があるだけである。

 どんな科学的作業にも欠くことのできない先験的要素がある。答えがあたえられるまえに問いが発せられなければならない。問いはいやしくもわれわれの関心の表現であり、それらは根底において価値判断である。したがって価値判断は当然、われわれが事実を観察し理論的分析を行う段階ですでに含まれており、決してわれわれが事実と価値判断とから政治的推論を引き出す段階で現れるだけではない。

 それゆえに、いまの私は、われわれが初めから終わりまでつねに明確な価値前提をもって作業をしなければならないという信念に到達した。価値前提は恣意的に設定されることはできない。それらはわれわれの住む社会に対して適切な関連と意義がなければならない。

 まずはじめに、それらは各社会群によって現実に追及される経済的利害の点で、また社会過程に対する人々の真の態度の点で、具体的に表現されなければならない。いかなる事情のもとでも、現実的な研究における価値前提は、自然法や功利主義の偉大な伝統のもとにある経済学者が客観的科学と政策との間の溝を埋めるために利用する類いの一般的・抽象的な諸原理によって表現されてはならない。」