幕末・明治維新略史

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◆マルサス『髙野岩三郎・大内兵衛訳 人口の原理』岩波文庫

(原著『人口の原理にかんする一論-ゴドウィン氏コンドルセー氏その他諸家の研究に触れて、人口の原理が社会の将来の改善に対する影響を論ず』)』1798

 2公準(あるいは法則)「食物は人類の生存に必要。」「両性間の情欲(パッション)は必ずありだいたい今のままで変わりがあるまい。」

 2比率 「人口は制限されなければ幾何級数的に増加」「生活資料は算術級数的に増加」

 「人口の増加と土地の生産力との2者の間に存するこの自然的不対等と、この両者の結果を常に対等にしておかねばならぬとするわれわれの性質に関する大法則とは、社会の完全に向かう途上の大きな困難である。」この法則の必然的結果が窮乏(ミゼリ)と悪徳(ヴァイス)であり、これが人口をチェックする。(pp.29-31)

 道徳的結婚の傾向があり人口増加の努力が続き、「この不断の努力は絶えず社会の下層民を困窮に陥れ」る。(pp.39) 「窮乏は人口増殖の方の優勢を抑止する制限であって、これにより人口は生活の資料と均衡を保つ程度になる。」(p.46) 

 [(付録)第2版では「前版と異なるところは、悪徳または貧困という項目には厳密には含まれない今一つの人口抑制があるということを認めたことである。」(p.242)それは「道徳的抑制」すなわち「人々が自分の責任を重んじ自制し結婚を遅らせること」(p.278)]

 救貧法は「食物を増やさないで人口を増加させる」「イギリス救貧教会区法は、これまで食料品のかちを騰貴させ、労働の実質上の価格を下落させる上に役立ってきたものである。・・・それでこの法律は、労働だけしか財産をもたない階級の人々を貧乏に陥れるのに貢献してきた。」「救貧法は疑いもなく最も慈善的な目的をもって制定された。」・・・もし救貧法を作らなかったら「甚だしい貧困の例は今よりは多かったかもしれないが、庶民社会の幸福は全量としてはいまよりはるかに大きかったに違いない」(p.66-)

 下層社会の貧乏を無くすには(1)現行救貧教会区法を廃止。農民に自由と行動の自主を許し、労働移動が自由になる。(2)開墾に奨励金、製造業よりも農業を重視し放牧より耕作を奨励。(3)極度の貧困者はカウンティ・ワークハウスに入れる。楽しい避難所ではなく貧しい人が休養するところ。建物の一部を区切るかまたは別棟に、内外の人が区別なくいつでもそこで一日の仕事が出来るようにし、市場価格で支払いをするようにしたい。(pp.72)

 「私有財産の安固と結婚制度という2つの基本法がひとたび確定してしまうと、そこから生活条件の不平等が起こってくるのはやむを得ない。・・・人類のうち誰かは欠乏のために苦しまねばならぬというのが、われわれの自然の不可避の法則である。・・・これらの人々こそ、人生の宝くじにおいて空くじを引き当てた人だ」(p.129)