幕末・明治維新略史

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◆D.リカード『小泉信三訳 経済学および課税の原理』(原著1817)岩波文庫

 「土地の生産物-即ち労働と機械と資本との結合投下によって、土地の表面から取得さるる一切の物は、社会の3階級の間に分たれる。土地の所有者、耕作に必要な財の蓄積(ストック)即ち資本の所有者、およびその勤労によって土地の耕さるる労働者が即ちこれである。しかしながら、社会発達の様々なる段階に於いては、地代、利潤および賃金なる名称のもとに、これら諸階級の各個に割り当てられるべき土地全産物の比例も、また大いに異なるであろう。しかしてそれを主として左右するものは、土地の現実の肥痩、資本の蓄積と人口と、および農業上にもちいらるる熟練と工夫と用具とのいかんである。この分配を左右する諸法則を決定すること、これが経済学の主要問題たるものである。」 (p.9)

 「労働の自然価格は、労働者およびその家族を養うために要せらるる食物、必需品および便宜品の価格によって定まるものである。食物および必需品の価格の騰貴とともに労働の自然価格は騰貴し、その価格の下落とともに労働の自然価格は下落するであろう。」 「労働の市場価格とは、供給の需要に対する比例の自然的作用によって、実際に労働に対して支払わるる価格である。労働はその希少なるときに高く、その豊富なる時に低廉である。労働の市場価格がいかにその自然価格から外れようとも、それは諸貨物と同じく、これに一致せんとする傾きを有する。労働者の状態が繁栄幸福であり、労働者が生活の必需品および享楽物のより大なる割合を支配する力を持ち、従って健康にして数多き家族を養うことができるのは、労働の市場価格がその自然価格を超過する場合のことである。しかしながら、高き賃金の人口増加に対して与える奨励によって労働者数が増加するときは、賃金は再びその自然価格まで下落し、時としては実に反動のため、これ以下にも下降する。労働の市場価格がその自然価格以下にあるときは、労働者の状態は最も悲惨である。その場合貧困は労働者から、習慣によって絶対的必要物となっている快適品を奪う。」

 「他の一切の契約と同じく、賃金も宜しく衡平自由なる市場の競争に任せらるべきものであって、決して立法府の干渉によって統制せらるべきものではない。」 「貧民の安楽と福祉とは、彼らの数を調節し、彼らのあいだにおける不用意なる早婚の度数を少なくしようとする、貧民の側における若干の顧慮、また立法府における若干の努力なくしては、到底永く確保せらるべきではないということは、疑いを容れない真理である。・・・救貧法は抑制を不要ならしめ、慎重にして勤勉なるものの賃金の一部分を提供することによって、不用意を招いたのである。・・・漸次救貧法の範囲を縮小することにより、貧民に教うるに、系統的の若しくは不時の慈善に援助を仰ぐべきではなく、自己の努力にこれを仰がねばならぬこと、用心および先慮は不必要の徳性たらず、また不利益の徳性たらざることを以てし、以て彼らに独立の価値を痛感せしむることによって、我々は漸次堅実にしてより健全なる状態に近付くであろう。」 (pp.85-)

 「いかなる救貧法改正案も、その撤廃を終局の目的としておらぬものは一顧の価値がない。・・・現在の基金徴集及び使用方法は、今日までその有害なる作用を緩和することに役立っている。」 (pp.100-101) 「救貧法が未だ甚だしく圧制的なものとなっていないのは、その適用方針の厳刻なことのお陰である。若しも法律によって、いやしくも扶助を要する人間は皆確実にこれを取得し得るとしたならば、あたかも生活をかなり安楽ならしむるがごとき程度に於いてこれを取得し得たとしたならば、」救貧税はかなり高額になる。(p.102)

 「資本は一国の富の中の、生産に使用せらるる部分であって、労働に効果を与えるに必要な食物、衣服、道具、原料、機械などから成るものである。」 (p.87)