幕末・明治維新略史

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エスピン=アンデルセン『アンデルセン、福祉を語る』NTT出版、2008


pp.102-103

過去五〇年の間に、福祉国家の危機が繰り返し叫ばれ、そのたびに万策は尽きたと論じられてきた。

まず、一九五〇年代には福祉国家の急速な拡張は経済を損なうという趣旨の警鐘が、多くの経済学者によって打ち鳴らされた。その後の二〇年で、福祉国家の前例のない急拡大を理由とした、こうした診断は誤りであることがわかった。

それから一〇年後に、また福祉国家の危機が叫ばれたが、今度は左派が警鐘を鳴らした。福祉国家は貧困撲滅との戦いに敗北したことから、左派は福祉国家に失敗の烙印を押したのである。しかし、このときもまた、事実は危機感に先行した。すなわち、一九六〇年代から一九七〇年代にかけて貧困は明らかに削減されたのである。これはとくに、年金改革によって退職者層の所得に対して寛容な支援がもたらされたことが理由である。

しかしながら、一九八〇年代に、またしても危機が訪れた。今度はOECDが国際的に福祉国家の危機を宣言した。メディアは「福祉国家の危機」と題されたOECD会議を大きく取り上げた。またしても経済学者や新自由主.義者は、福祉国家を高いインフレ率と経済停滞の根源であるとして糾弾した。こうした見方は、またしても信頼性に乏しい。というのは、あれから我々の経済は二五%を超える経済成長を記録し、インフレは収まったからである。

そして二〇年後の現在、我々は新たな福祉国家の危機に直面している。今回の危機は人口の変化によるものである。人口推計から、人口の高齢化によって多額の福祉費用が必要となる。こうした状況から福祉国家は生き延びることができないだろう。さらに、人口の高齢化は世代間の軋礫を生み出し、これが解決される見通しも立たない。増え続ける高齢者は、勝ち組として生涯を終えるという論証である。