幕末・明治維新略史

HOME > 制度審25年37年

社会保障制度審議会勧告等


(昭和25年と昭和37年の部分的紹介と抄録)



◆「社会保障制度に関する勧告」(昭和25年10月16日)



(序説)敗戦の日本は、平和と民主主義、人権とデモクラシーの前提として、いかにして国民に健康な生活を保障するか、いかにして最低でいいが生きてゆける道をひらくかが、必要である。これが再興日本のあらゆる問題に先立つ問題である。



従来も貧困退治の方法を持っていたが、「いまや人間の生活は全く社会化されている」ので「国家もまたその病弊に対して社会化された方法を持たねばならぬ」(工業化が進み被用者家族が増え、伝統的な農家や商店などの自給自足的消費や家族親族の扶養、近隣や同業者の扶助などで生活を支えることが難しくなった。都市の労働者家族の生活を支えるのは身内や知り合いからの援助ではなく、商品購入のための現金となったことを指すのであろう;引用者注)。すでに外国でいわゆる社会保障の制度が著明な発達を遂げているのはこのためである。



憲法第25条は、「国民に生存権があり、国家には生活保障の義務があるという意である。これは我が国も世界の最も新しい民主主義の理念に立つことであって、これにより、旧憲法に比べて国家の責任は著しく重くなった」。



長年のインフレーションは社会保険や社会事業の制度を財政難に陥れて多くは破綻の状態である。また戦争は国民生活を圧迫し窮乏と病苦に耐えられないものが少なくない。ことに家族制度の崩壊は彼らから最後の隠れ場を奪う。



このような理念と社会的事実の要請がある。



 「社会保障制度とは、疾病、負傷、分娩、廃疾、死亡、老齢、失業、多子、その他困窮の原因に対し、保険的方法または直接公の負担において経済保障の途を講じ、生活困窮に陥った者に対しては、国家扶助によって、最低限度の生活を保障するとともに、公衆衛生および社会福祉の向上をはかり、もってすべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすることをいう。」



「このような生活保障の責任は国家にある。…この制度は、もちろんすべての国民を対象とし、公平と機会均等とを原則としなくてはならぬ。また これは健康と文化的な生活水準を維持する程度のものたらしめなければならない。そうして一方国家がこういう責任をとる以上は、 国民もまたこれに応じ、社会連帯の精神にたって、それぞれその能力に応じてこの制度の維持と運用に必要な社会的義務を果たさなければならない。」「社会保障制度はそれだけではその目的を達しえない。一方においては国民経済の繁栄、国民生活の向上がなければならない。他方においては最低賃金制度、雇用の安定などに関する政策の発達がなけらばならない。」「しかしわが国の貧弱な財政のもとにおいてはこれらすべてを一時に実現することは困難である」。



(総説)「国民の自主的責任の観念を害することがあってはならない。その意味においては、社会保障の中心をなすものは、自らをして、それに必要な経費を拠出せしめるところの社会保険制度でなければならない。」 (下線引用者)



現実には社会保険のみでは救済しえない者も少なくない。国家の扶助は国民の生活を保障する最後の施策であるから、「社会保険制度の拡充に従って、この扶助制度は補完的制度としての機能をもたらしむべきである。」



さらに国民の健康増進のために公衆衛生が、国民生活の破綻を防衛する社会福祉行政の拡充も必要。「社会保障制度は、社会保険、国家扶助、公衆衛生および社会福祉の各行政が、相互の関連を保ちつつ総合一元的に運営されてこそはじめてその究極の目的を達することができるであろう」。



第1編 社会保険…当面は、「国民の労働力を維持するとともに、全国民の健康を保持することに力点」をおき、各種の社会保険を統合し給付と負担の公平を図る。



第2編 国家扶助…生活困窮に陥った全てのものに対して国がその責任において最低限度の生活を保障しもって自立向上の途をひらくことを目的とする。これは国民の生活を保障するための最後の施策であることを建前とする」。従って他のあらゆる手段による努力をはらった上で、なお最低生活を維持出来ない時。



第3編 公衆衛生および医療…医療とは診療、薬剤支給など、一般的医療行為および施設のこと。



第4編 社会福祉…「社会福祉とは、国家扶助の適用を受けている者、身体障害者、児童、その他援護育成を要する者が、自立してその能力を発揮できるように、必要な生活指導、更生補導、その他の援護育成を行うこと。」



第2節 福祉の措置



第1(被扶助者の指導援護)



生活保護法では金銭または現物の給付による経済保障と、要保護者個々人の環境、性格、能力等に応じる個別処遇とを同時に規定している。従って国家扶助を経済保障として確立する本制度では、後者に属するものを国家扶助から明確に区別し、社会福祉の一環として扱う。



1老衰、2身体または精神上の欠陥、3生業できるもの、ほか。



第2(身体障害者の福祉) 第3(児童の福祉) 第4(生活指導相談および生活、生業資金の貸与) 第5(住宅援護) 第6(老齢者ホーム)







◆「社会保障制度の総合調整に関する基本方策についての答申 および社会保障制度の推進に関する勧告」(昭和37年8月22日)



第1章 総論 憲法25条の健康で文化的な最低限度の生活をすべての国民に保障する事が社会保障の目的であるが、そのための手段は時代とともに、特に経済構造の変化とともに変わる。近年の経済成長につれて人口、就業、生活の諸状態の変動は大きい。例えば、出産率の低下、人口の老齢化、農村人口の減少、人口の都市集中などのため、所得の格差、地域の経済力の格差は拡大し、その解消が強く要請されている。これはある程度は政府の所得倍増計画に由来するから、社会保障の長期計画をたてるのは政府の責務である。その際、与えられている公準は 



 ア)社会保障は国民生活を安定させる機能を持つとともに、所得再分配の作用を持ち、消費需要を喚起し、景気を調節するなどの経済的効果を持つので、公共投資や減税同様に重要な意義を持つこと。
 イ)国民所得および国家財政における社会保障費の地位を、今後10年間に「この制度が比較的に完備している自由主義の諸国の現在の割合を、少なくとも下回らない程度にまで」引き上げるべきこと。
 ウ)国庫負担,保険料,受益者負担の割合の配分の原則を確立し、また各制度間の均衡の基準を定めること。



1 これまでの社会保障は社会保険を中心として発展してきたが、海外の社会保険は歴史的にみて主に被傭者に対する制度とくに医療保険を中心に発展してきた。我が国では、皆保険、皆年金の政策がはかられているが、新しい局面として「全制度を通じて全国民に公平にその生活を十分保障するものでなければならない」ので社会保険の制度間のバランスを確立しなければならないので従来の考え方を再検討することが必要。つまりもっぱら被用者の制度として始まり、社会保険即ち労働者保険で、労働政策または社会政策の一環としてであった。欧米先進国に比して、自営業者とくに農民が多いので、被用者の制度をそのまま国民一般に広めてもうまくゆかない。



 防貧制度として社会保険は有力な手段であるが、低所得に成ってしまった者にはこれ以外の施策を要する。



(略)



(1)救貧制度



(2)社会福祉



(ここでは広義の社会福祉でなく)公的におこなわれる低所得階層に対する防貧政策としての社会福祉をいう。この政策は各人各様の貧困原因に応じて行なうもので、防貧の力は社会保険よりも直接的である。



社会保険は一般的、普遍的な防貧機能をもつが、保険料を負担できない者を排除したり、防貧効果のない低水準でがまんさせてしまったりする。また、貧困におちいる個別的な原因に対し社会福祉政策がまさる。貧困線以下におちこむ公算の大きいものにたいする防衛手段としての社会福祉で、社会保険を補完するもの。しかし税金による一般財源は公的扶助に次いでここに優先的に投入されるべき。



(3)公衆衛生







従来は、医療、年金、国家扶助、公衆衛生、社会福祉というような事業区分による考察を止めた。社会保障の対象たる国民階層を、貧困階層、低所得階層、一般所得階層というふうに分け、各階層に応じる対策と諸階層に共通する対策に分けて考察する。



 ア)貧困階層(生活程度が最低生活水準以下)主として公的扶助による救貧 
 イ)低所得階層(最低水準以下ではないが大差のないボーダーライン階層、および老齢,廃疾,失業などの理由でいつ貧困階層におちいるかわからない不安定所得階層)公的な社会福祉を主軸、社会保険を適用するなら公的負担により加入を容易にすること 
 ウ)一般所得階層(それ以上の水準の階層)社会保険中心
 エ)各階層を通ずる対策 公衆衛生、生活環境改善 



第3章 低所得階層に対する施策



 「ここでいう社会福祉は、一定条件にある低所得階層の権利として確保しようとするものであるから、従来社会福祉といわれてきたものより狭い概念であり、国民の福祉をより一層向上するために行なう対策はこれに含まれない」社会福祉は原則として受益者に費用負担させるべきでないが、当人に負担能力があり、受益出来ないものとの権衝上適当である場合には、費用の一部を当人に負担させることもある。



◆国民諸階層について



すでに社会保障案(昭和21.7.31 社会保障研究会)のうち「実施上の方針」のうちに

国民の各階層各部門の感じる窮乏はそれぞれ異なるところあるを以て国民を左のごとく分類する。

被用者 自営者 主婦 無業者 退職者 児童

とある。