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和你在一起~北京ヴァイオリン 
★★★★★


ハリウッドに進出した陳凱歌(chen kaige)監督が再び舞台を中国に戻して、しかも彼が現在進行形のリアルな中国の大都会を描くのは初めてではないでしょうか、大都会、北京でひたむきに生きる父と息子の絆を縦軸に、彼らをめぐる市井の人々の心の襞を温かく描いた感動作です。現代社会では否が応でも置き去りにされがちな人間としての素朴な優しさと無償のさまざまな愛…。父子の現在と過去がスクリーン上で、少年が奏でるクラシックのヴァイオリン旋律と交差するラストシーンでは、みんな、クスンクスン鼻水を啜らざるを得ないです(笑)。
2002年、サン・セバスチャン国際映画祭で最優秀監督賞を受賞しています。映画成功後、TVドラマとしても製作され、日本でも確かNHKで放送されていましたが、どうも気ぜわしい日本人には中国の連続ドラマが冗漫に感じてしまいます。 最初に見るなら絶対、簡潔なこちらの映画バージョンです。

ストーリーは
豊かな水を湛えた純朴かつ美しい風景と、人々の素朴な温もりを未だ残す中国北方の田舎町で、食堂の料理人として働く貧しい父親、劉佩奇(liu peiqi)演ずるところの劉成(liu cheng)は、唐韻(tang yun)演ずる息子小春(xiao chun)のヴァイオリンの才能を信じて彼を一流のヴァイオリニストにすることこそ生き甲斐と暮らしていた。一方、息子小春は父親の愛情を精一杯受け止めながらも、彼がヴァイオリンを弾くのは母親の形見のヴァイオリンを弾くことで母親の面影を追っていたからに他ならなかった…。それでも小春は天性ヴァイオリンが得意で、ついに父親の念願叶い、北京のコンクールに出場することになります。
劉成は息子小春を連れて北京に出て来ますが、後ろ盾のない小春はコンクールでは5位に終わります。でも父親は諦めません。息子のために二人で北京に残り、著名な先生の個人レッスンを仰ぐことなります。最初に師事した王志文扮する(jiang)先生は才能はあるものの運に恵まれず、恋人との別れを契機に人生も音楽も諦め、髪の毛ボサボサ、世捨て人のような暮らしをしている変人。次第に父親の劉成は息子がソリストとして成功するには音楽界に力のある教授につくことが大切とわかって、江先生を断り、音楽学院の(yu)教授に息子を託します(実は、この余先生を、監督の陳凱歌自身が演じています)。
一方、小春は北京で偶然知り合った高級娼婦の莉莉(lili)に少年らしい思慕とまた母親へ面影を重ねていました。そして、江先生を勝手に断った父への反発から自分のヴァイオリンを売って莉莉に毛皮のコートを買ってしまいます。
国際コンクール出場者を決める大切な当日、自分がいては息子の将来の邪魔になると考え北京を離れようとする劉成余教授に出生の秘密を聞かされた小春はコンクールを棄権して北京駅に父親を追い駆け、駅頭で父親と莉莉江先生にチャイコフスキーを演奏して聴かせる…。


カンヌ国際映画祭でパルムドール受賞覇王別姫さらばわが愛以来の秀作だと思います。
当作品は父親と息子の絆、二人の先生や莉莉との個人的な心の繋がりを描いたヒューマンドラマの形を借りていますが、陳凱歌監督自身はそれぞれの登場人物に現代中国の急速な発展がもたらす歪みや変化を浮き彫りにしています。一人っ子政策の中国で親たちは、情操教育として子供に音楽を習わせるのではなく、自分たちの将来の安定のために子供の立身出世を賭けて必死。莉莉のような若い女性は消費社会で物質的な欲求を満たすために身体さえ売る…。江先生のような古いタイプの芸術家は時代に取り残され、余教授のように器用に時代の波に乗れる人間だけが豊かな生活を保証される…。すべてが競争社会になってしまった昨今だからこそ、劉成のような無私無欲の人間が希少価値とも感じられて思わずホッと共感を呼ぶのでしょう。
陳凱歌監督は、北京の現在をシニカルといっても良いほど怜悧に描いて批判の目を向けています。登場人物の中で一番功利主義的な人物、余教授を自ら演じているところも、監督自身、知識人としての一種「言い訳」のような意味合いがあるのでしょうか セリフもなかなか意味深長なものがあります。

とにかく主演の少年、小春の自然な表情も癒されます。彼は当時、実際に音楽学校でヴァイオリンを学ぶ学生だったそうですから、演奏の姿もすっかりサマになっているわけですね。ちなみに父親役の劉佩奇陳凱歌監督と一緒にに、サン・セバスチャン国際映画祭で主演男優賞を受賞しています。

でも、最後に一言。
北京を主な舞台にしているせいか、劉成江先生莉莉と、やたらとセリフが速くて捲舌音なのには少し…(笑)。でも、これくらいが普通なんでしょうね 勉強、勉強!!

監督:
脚本:


主演;
    

陳凱歌
陳凱歌
薛暁路

唐韻
劉佩奇
王志文
陳凱歌
陳红 etc.