多摩市自治基本条例成立と、その前史
   (前編 自治基本条例の前史)

 目次

 前編(自治基本条例の前史
1、平成10年第1回本会議 臼井市長 施政方針と 松島議員質問
2、平成11年第1回本会議 臼井市長 施政方針と 松島議員質問
3、平成11年第2回本会議 松島議員 一般質問と 鈴木市長答弁
4、平成12年第1回本会議 鈴木市長 施政方針と 松島議員質問

 後編(本格化する議論) 後編を開くには此処をクリック
5、平成13年第1回本会議 鈴木市長 施政方針
6、平成13年第3回本会議 松島議員 決算総括質疑と 市長答弁
7、平成13年第4回本会議 安藤議員 一般質問と 鈴木市長答弁
8、平成14年第一回本会議 市長職務代理 市長逮捕の行政報告
9、平成14年第2回本会議 渡辺市長 所信表明
10、平成15年第3回本会議 岩永議員 一般質問>
11、平成15年第4回本会議 渡辺市長 自治基本条例提案説明>
12、平成16年第1回本会議 条例修正可決 委員長報告と、討論

  1、平成10年第1回 臼井市長と 松島議員質問
議事録本文
1998.03.03 : 平成10年第1回定例会(第1日) 本文
臼井市長 施政方針

◯市長(臼井千秋君)  平成十年第一回多摩市議会定例会の開催に当たり、私の市政運営に対する所信を申し述べて、市議会並びに市民の皆様のご理解とご協力をお願いいたします。
 二十一世紀まであと二年余りとなりました。新しい時代の黎明下で、我が国は今、維新、戦後改革に並ぶ「第三の変革期」を迎えています。
 明治以来百三十年間続いてきた中央集権型行政機構の改革、少子・高齢化の進行、経済の低成長、高度情報化、価値観の多様化、教育改革など、これまで我が国を支えてきた社会・経済等のシステムは、構造的な変革の波に洗われています。
 世界もまた冷戦後の和平や環境、人口、食糧など、地球的規模の課題に直面し、国連を中心として各国やNGOは、平和と繁栄に向けた新たな国際秩序を築くため、懸命な努力を続けています。
 このように、世界が変わり日本が変わっていく中で、多摩市も新たな自治の展開が求められています。社会・経済が「成長から成熟へ」「集権から分権へ」と大きく変化する中で、私は改めて暮らしと行政のあり方を見つめ、「市民の、市民による、市民のための市政」を旨に、現在そして未来の市民の幸せと豊かな暮らしをどこまでも守り、支えてまいる決意でございます。
 そのために、行財政改善をさらに徹底し、総合的、効率的かつ公正・透明な、開かれた市政へ自己変革を遂げてまいります。
 現総合計画の推進並びにその成果を発展的に継承し、第四次総合計画の策定に取り組み、自治と分権を確立し、市民、民間、非営利団体などの皆さんとともに、希望と活力に満ちた豊かな成熟都市・多摩を築いてまいりたいと考えます
(以下省略)

1998.03.20 : 平成10年第1回定例会(第6日) 本文
松島議員 一般質問と臼井市長答弁
◯二十九番(松島吉春君)  通告に基づき、一問、臼井市長の在任期間中の総括と第四次総合計画の策定などについて伺います。 このような間口の大きい質問をするに至った経過等につき、まずご説明いたしたいと思います。 一つは、我が国での地方分権の大きな流れと市長の施政方針演説での「我が国は今、維新、戦後改革に並ぶ第三の変革期を迎えています」との歴史認識と、「新たな自治の展開」という発言に注目したからであります。
 二つ目は、昨年の施政方針演説から、市長は歴史の大きな変革との認識を示し、私は代表質問の中で、その認識に同意を示した上で、小さな中央政府と市民福祉向上のために大きな地方政府である市町村の権限と財源の拡大を主張しました。
 これは、私なりの地方分権論であり、それに基づいての質問でもあります。
 三つ目は、私が市議会議員として三期目の当選をしてすぐの一般質問で、つまり九五年六月議会で、住民投票制度を質問したことの続きでもあります。
 住民投票制度については、この三年間で、地方分権との関係の中でその必要性が往々に議論されてきております。また、今議会の代表質問でも、市長が訴える「新たな自治」との絡みの中で、市長は「住民の自己決定権」と発言し、聞きようによっては住民投票制度の必要性とも受け取れる発言がありました。
 私は、九五年六月の質問の中で、住民投票制度の必要性を憲法第九十二条の地方自治の本旨との関係で、通説である団体自治と住民自治という二本立てで地方自治の本旨をとらえるのではなく、住民自治ととらえるべきではないかと問題提起いたしましたが、今回の質問もその延長線上にあります。
 以上、三点述べましたが、その他もありますが、要するに地方分権の時代での私なりの小さな中央政府と大きな地方政府という地方分権の認識と、もっと直接民主主義的要素を強めた新しい地方自治という考え方を背景に持ちつつ、市長が言う新たな地方自治と今議会での代表質問等でNPO絡みで明らかになりつつあるように、その新たな自治に基づくであろう第四次総合計画等の策定について伺うものであります。
 具体的に以下質問いたします。
 (中略)
 五、市長の施政方針演説で、新年度について「内外の変革期を迎え、新たな自治を拓く年」という発言と、「市政を自己変革する」との発言がありました。「新たな自治」について詳しい説明と、市政はどのように変革されるべきと考えているのかにつき伺います。
 以上、ご答弁をいただいて、再質問をいたします。

◯市長(臼井千秋君) 
(中略)
 次に、五についてお答えいたします。
 「新たな自治」とは何を指しているのかというご質問でございますが、ご案内のとおり、現在の地方自治制度は憲法第九十二条の地方自治の本旨に基づき、地方自治法において地方自治行政の基本原則が定められております。
 これらの地方自治制度に基づき、戦後五十年間にわたる中央集権的な地方自治制度は、高度成長期の時代の要請に十分機能し、産業界の設備投資に政府は資金を投入して、産業環境の整備などさまざまな支援を行い、大規模な工業地帯の形成やエネルギー開発、技術開発を支援してまいりました。
 地方自治体においても、産業の高度化と社会資本の整備を求め、国の計画的かつ効率的な資金配分により、国の標準化された画一的な行政サービスの向上と社会資本の整備が急速に進展した一方、地方自治体固有のまちづくりなどの視点が生かされることなく、広域的な行政需要の増大に伴う中央省庁の権限掌握の進行が、地方自治の後退といった弊害を生み、多様化、個別化する社会の中で、中央集権制度が制度疲労を起こしているとも言われております。
 このような中で、自治に対する住民意識、住民生活に対する地方自治の浸透度は、必ずしも十分に深まらず、住民が行政を監視し、みずからの自治体を経営していこうとする感覚やそのためのシステムが十分に機能しなかった等の認識に立って、地域における行政の自主性・自立性を高め、個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を目指し、国と地方の役割分担を見直し、従来の中央集権型社会から地方分権型社会への大きな転換の必要性が叫ばれるようになりました。
 これらの取り組みは、昭和二十四年のシャウプ勧告に始まり、第一次臨時行政調査会から第二次臨時行政改革推進審議会へ、また第三次臨時行政改革推進審議会へと受け継がれ、平成五年になって憲政史上初めて「地方分権の推進に関する決議」が国会で全会一致で採択され、平成七年五月十五日に成立した地方分権推進法の制定への大きな弾みとなりました。
 今回の地方分権推進法では、これまでの数次にわたる審議会等の勧告が実現されなかった反省に立って、地方分権推進委員会に勧告及び勧告の実施の監視機能を付与し、実行ある分権改革を目指したものであります。
 現在の地方自治についても、地方自治法別表に記載されている機関委任事務の廃止や団体委任事務の自治事務化、また地方自治法第百五十三条の市長委任条項の廃止や勧告に基づく各法令等の改正など、大幅な法律改正が想定され、国と地方の大きな枠組みの変更が行われようとしております。
 地方分権推進委員会による四次にわたる勧告が実行され、確実に推進されていくことが地方自治の本旨である住民自治の拡充を促進していくことであると認識しております。
 施政方針におきまして、「新たな自治を拓く年」と位置づけた背景は、社会が中央集権型から地方分権型へと転換していく中で、市政においても住民自治を基本とした市民の自己決定権の拡充、自己責任に基づく地域社会に果たす役割の拡大など、地方分権改革が明治維新、戦後改革に次ぐ第三の改革として二十一世紀に向けて、地方自治にとっての新たな時代を拓いていくとの視点から、「新たな自治」との位置づけを行ったものでございます。
(以下省略)
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2、平成11年第1回 臼井市長と 松島議員質問
1999.03.02 : 平成11年第1回定例会(第1日) 本文
臼井市長 施政方針
◯市長(臼井千秋君)  平成十一年第一回多摩市議会定例会の開催に当たり、私の市政運営に対する所信を申し述べて、市議会並びに市民の皆様のご理解とご協力をお願いいたします。
 新しい世紀まで、あと六百日余りとなりました。
 今、我が国はあらゆる分野で“変革と再生”のときを迎えています。
 およそ半世紀にわたって戦後の日本を支えてきた、社会、経済システムは大きく変わりつつあり、特に景気の低迷は、市民の暮らしに深刻な影響を与えております。
 このような中で、私は平成十一年度を「新たな自治のしくみを確立する年」と位置づけ、市民生活の安定や、少子高齢等の緊急・重点課題に積極的に対応し、第三次総合計画の仕上げに、組織の総力を挙げて取り組む考えであります。
 また、地方分権を初めとする「第三の変革」を、「新たな時代への胎動」ととらえ、第四次総合計画の策定を進め、市民の選択と責任に基づく“市民協働社会”創出に努めます。さらに、行政みずからも、「自治・分権時代」にふさわしい“市民感覚”に根ざした市政への自己改革を図り、より一層公正・透明で、開かれた市政運営を目指します。
 一方、東京都市長会会長として、多摩地域の発展と三百八十万市民の福祉向上に努力する考えであります。
 私はこれまで市長として二十年間にわたり、「ふるさととして誇れるまち・多摩」の基礎を創るため、全力を尽くしてまいりました。
 この間、市政を取り巻く環境が著しく変化する中で、行政と市民、民間が一体となり、「太陽と緑に映える都市~心のふれあういきいき多摩」の実現に向けて、努力を積み重ねてまいりました。
 その結果、本市は当初のベッドタウンから、さまざまな都市機能をあわせ持つ活気と魅力のある自立都市へと目覚ましい成長を遂げ、今や内外に誇り得る都市として、発展を続けてきており、大変喜ばしいことと考えております。
 本年は統一地方選挙の年であります。
 私は、任期満了の日まで責任を持って、「市民による、市民のための施政」を貫き、二十一世紀の多摩へ、確かな“架け橋”を築く決意であります。
(以下省略)
1999.03.04 : 平成11年第1回定例会(第3日) 本文
松島議員 代表質問と臼井市長答弁
◯二十九番(松島吉春君)  改革の会を代表しまして、市長の施政方針演説について代表質問をいたします。
 市長の施政方針演説について、一昨年は、たしか「変革の時代」という時代認識を示し、そして昨年は「新たな自治を切り拓く」という、かなり壮大な試みを示してきて、そして今年は「分権・協働元年」という形でもって、新たに重点課題の中に「地方分権の推進と市民協働社会の創出」というものを加えてきたということで、ここ数年の市長の施政方針演説を伺っていて、この変革の時代に、変わっていかなければいけない時代に、新たな地方自治に取り組んでいかなければいけないという、そういう熱意というものが感じられるのが、ここ数年の市長の施政方針演説だというふうに私なりに感じております。
 そこでまず一点目について伺います。
 自治・分権時代にふさわしい公正・透明で開かれた市政について伺います。市長は「自治分権時代にふさわしい、市民感覚に根ざした市政へと自己改革を図り、より一層公正・透明で、開かれた市政を目指す」とのことです。私も、これからの新しい自治にとって、このことは重要なことだと思います。しかし、市民感覚とは抽象的ではっきりしません。自治・分権の時代には、まず市民という概念の把握が必要と考えています。市民と住民とでは概念が異なると考えています。つまり、東京都民も○○区民も都民であり区民という住民であると同時に市民でもあります。ここで言う市民とは、近代市民社会の構成員である、封建的あるいは共同体的な社会から解放された、みずからの意思と責任で行動する市民社会の構成員である市民という意味だと考えます。
 私が、「ローカルパーティ東京市民21」で活動していたとき、江東区の人から、おれは江東区民であり市民ではないのに、なぜ「東京市民21」という名前なのかと尋ねられたことがあります。住民という概念と市民社会の構成員である市民という概念を混同した例だと思います。日本でも、とりわけ多摩市では、一定の地域や団体等に拘束されていない自立した市民が成熟してきていると考えます。このような社会的背景があるからこそ、第三の分権、つまり市民への分権が語り得るのだと思います。市民という概念と住民という概念を混同することなく、この二つの概念を尊重してコミュニティにつき議論を深めて新たな自治の展望を開いていくべきだと考えます。
 そこで、市長の目指す方向につき、具体的には市民との協働、市民への説明責任、都市経営などの視点を踏まえた第二次行財政改革の策定に着手するとのことです。どのことも大変重要なことであり同感です。しかし、問題は、ただ単に行財政改善計画のみにとどまらないと考えます。より具体的に説明を求めます。
 二点目は、地方分権における税源移譲と地方交付税制度について伺います。国は税源移譲を含めた地方分権をさらに推進すべきであるとの市長の話です。私も同感です。しかし、この税源移譲の問題は、地方交付税制度の廃止を含む問題が内包していると考えます。地方交付税制度とは、財源の足りない自治体に国が所得税、法人税、酒税の三二%と、消費税の二九・五%と、たばこ税の二五%を合わせたものを原資として補給する仕組みですが、全国三千二百八十地方団体中、不交付団体はわずか百四十二団体にしかすぎず、交付団体は三千百三十七団体にも上ります。実態的には、この制度は財源の足りない自治体のための制度とは言いがたいと考えます。しかもこの制度は不足払いの制度であり、財政が悪ければ悪いだけもらえ、改善されるともらいが少なくなるという致命的な欠陥があります。これでは財政を健全化しようとする意思が働きにくくなります。それどころか、決算特別委員会で紹介したように、「○○市は努力の結果不交付団体」、交付団体ではなくて不交付団体です、それになったという新聞記事が地方紙に掲載されるような本末転倒した姿になってしまいます。地方交付税制度の改革が必要だと考えます。
 本来であれば、地域の産業を興して、税源を涵養し、独立独歩の運営を図ろうとするのが地方自治体のあるべき姿だと考えています。その点、多摩市は、私が議員になった十二年前は、まだ地方交付税の交付団体でしたが、不交付団体となり、今では全国有数の財政力を得るまでになったことは高く評価したいと思います。地方への税源移譲問題と、地方交付税制度の関係につき、市長はいかがお考えか伺います。
 三点目は、地方特例交付金の創設と、減税補てん債の返済について伺います。平成十一年度の恒久的減税の実施に当たり、地方がこうむる減収分の約四分の三を国が補てんする地方特例交付金を創設する運びになったことは大きな成果でありますとの市長の話です。国の施策である景気対策で行った減税の穴埋めのためにしてきた借金の返済を、地方交付税の不交付団体のみがみずからの市税で返済しなければならないという、今までの矛盾については決算特別委員会でも指摘してきており、市長と同感で、大きな成果だと思います。しかも、この大きな成果とは、地方特例交付金制度ができたことにより、今まで景気対策のために多摩市が発行してきた減税補てん債、約四十七億円の返済に当たっても、少なくともその四分の三相当額は多摩市のような地方交付税の不交付団体であっても、国が責任を持って返済すべきであるとの理論的根拠を得たことになります。減税補てん債の返済に当たっては国の責任を求めていくべきだと考えますが、いかがお考えでしょうか。
 四点目は、市民協働社会の創出と、官、つまりお役所の変革について伺います。市長は平成十一年度は地方分権の推進と市民協働社会の創出を新しく重点課題に加え、本年を「分権・協働元年」として積極的な推進を図るとのことです。従来の三つの重点課題に加えて、この課題を新たに重点課題に加えたことを評価します。前段でも述べましたが、市民という概念が、これからの地方分権と新たな地方自治を切り開いて行くに当たってのキーワードだと考えています。つまり、共同体的社会のしがらみから解放された自立した市民が構成する市民社会が日本にも登場してきた時代が今日だと考えます。そういう意味では、市民協働社会の創出とは壮大な試みだと思います。この壮大な試みのわりには、具体的な協働の試みとして、旧東永山小学校跡地の法面管理と、鶴牧西公園の果樹の谷について市民団体に管理をゆだねるとの市長の話で、少々物足りません。
 市民協働社会とは、官権・官主・官治、つまり官が権力を握り、官が主人であり、官が治める、こういった社会から、民権・民主・民治、つまり、民が権力を持ち、民が主人であり、民が治めていく、そういった社会への変換だと思います。市民協働社会のためには、官の側の変革が必要だと考えます。お役所仕事の変革が必要です。この点につき、特に官、つまりお役所とNPOとの関係を含めて所信を伺います。
(中略)
◯市長(臼井千秋君)  最初の質問から順を追ってお答えをいたします。
 まず、施政方針の、「より一層公正・透明で、開かれた市政運営」についてでございますが、私は、昭和五十六年の第二次基本構想で、本市の将来像を「太陽と緑に映える都市、心のふれあういきいき多摩」として以来、みずみずしい創意にあふれる都市、活気とにぎわいのある都市など、五つの都市づくりの目標に基づき、議会を初め市民の皆様のご理解とご協力を得ながら、まちづくり全般にわたって積極的に施策を展開してまいりました。
 都市基盤施設や生活関連基盤の整備をはじめ、行政施策の充実に努め、当初計画をした事業は、おおむね達成し、大きな発展を見ることができたものと思っております。
 また、多摩ニュータウンを契機に大きく発展した本市は、単なるベッドタウンだけではなくて、積極的な企業誘致を図るとともに、市民の福祉向上のために必要な公共施設の整備を進めることによって、さまざまな都市機能をあわせ持つ自立都市へと変貌してまいりました。
 この間、順調に成長してきた我が国の社会経済ではありますが、二十一世紀を目前に控え、少子高齢化という人口構成の変化、経済活動の成熟化・国際化、民間企業や市民生活の情報等の加速的な進展など、大きな社会経済環境の変化が生じております。
 その一方で、行政におきましては、国、地方を問わず、行政改革が求められております。この問題は、さまざまな経済的要請や行政のあり方を問うところに起因しており、特に公務における能率性や透明性に対する市民の関心や要望が、その高まりとなってあらわれているものと思います。
 この背景にあるものは、自由競争社会の上に形成をされていた行政システムが、外的には貿易収支等に見られる問題からさまざまな権限の移譲や緩和を求められるとともに、内的には指導権限の拡充、給付行政の多様化によって、その持つ力を拡大してきたことにより、機構・人員・経費の増大を招き、明治以来の中央集権型行政システムが制度疲労を起こし、これらの改善や能率的運用を考えざるを得ない状況となってきているのではないかと考えております。
 こうした状況から、市民が真にゆとりと豊かさを実感できる社会を実現するとともに、地方自治体の自主性や自立性を高め、個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を図るために、地方分権の取り組みを進めております。
 もともと、憲法で制度上保障されている地方自治は、国から独立した地方公共団体である団体自治と、団体の意思と機関を住民参加のもとに決定する住民自治で構成をされており、双方の自治は、密接不可分で切り離すことはできないものです。
 また、地方自治の運営などにつきましては、憲法を初め、地方自治法において、地方自治の本旨に基づくことが示されており、その意味するものは、地方公共団体に一定の自己決定権を保障するとともに、それぞれの自主性を尊重することではないかと認識をしております。
 こうした観点に立ち、今後の市政運営において、市民にとって真に必要なサービスを最小の経費でしかも最良の形で提供するために、「市民との協働」「市民への説明責任」「都市経営」などの視点をもって、行政の職員の一人ひとりが市民の生活感覚で施策や業務を改めて点検をしていくことが必要と考えております。
 また、行政が市民にとって、より開かれたものとして、公正で透明な行政とするために、求められた情報を提供するだけではなく、行政がさまざまな施策の取り組み状況を明らかにする必要があると考えております。
 まず、このような自己改善に取り組むことによって、行政がこれまで担ってきた分野を含め、NPOやボランティア団体などへのいわゆる「第三の分権」を押し進め、「自治と分権時代」にふさわしい市政運営を展開する所存でございます。
 次に、地方への税源移譲と地方交付税制度との関係でございますが、地方分権推進計画においては、国と地方の「対等・協力」関係が改めてうたわれておりますが、現在は地方分権推進の出発点に立っている段階と認識をしております。
 と申しますのは、平成十一年度地方財政収支の概要で地方財源の状況を見ますと、全体歳出規模に対する地方税の割合は四〇%に過ぎず、恒久的減税に伴う減収分も含めると地方財政は十三兆円の財源不足の状況であり、地方自治体の財政状況は非常に厳しい現状であります。
 しかし、分権社会においては、自治体の行う事務に必要な経費は自主財源で賄うということが基本であります。残念ながら分権推進に伴う財源確保については具体的な方向が示されていないのが現状であり、その問題が地方分権の推進に大きく立ちふさがっているものと考えております。
 自治体の自主財源の柱は地方税であり、その拡充のためには、国税中心から均衡のとれた安定した地方税中心の税体系に移行していくことが望ましいことであります。
 国税中心の税体系から地方税中心の税体系に移行する手法として税源の移譲が考えられます。
 例えば、一部の自治体に税源が偏らないような所得税から個人市民税への振り替えや、消費税に占める地方消費税の割合の引き上げなどについても考えられます。
 また、地方自治体が自主的、自立的に行財政運営を行い、市民の選択によって税負担を決定できるような制度も考える必要があります。
 次に地方交付税のあり方についてでありますが、その目的は、1)国民生活に不可欠な標準的な公共サービス実現のための財源保障であり、2)同程度の税負担をする人が同程度の公共サービスを受けられるように地域間の経済力格差とサービス提供コストの格差に基づく自治体間の財政力調整にあると認識をしております。
 本制度については、全国で百二十にすぎない普通交付税不交付団体と、三千を超える交付団体との間で認識が大きく異なっているのが実情でございます。
 本市の場合は、昭和六十二年度から不交付団体となっておりますが、効率的な行財政運営の強化や企業誘致などを中心とした自主財源確保の努力など、自治体としての創意工夫が生かされた上での地方交付税制度改革が求められるべきではないかと考えております。
 また、平成十一年度で総額二十兆円を超える地方交付税は自治体が共有する財源でもあり、その配分基準などについてより簡易にするとともに、制度の決定過程を明らかにする必要があると考えます。
 地方分権を具体的に進めるためには、今後、財源問題について地方団体も積極的に参画した上で十分に論議する必要があると考えております。
 その中では、自主財源が乏しい自治体は交付税の強化を求めます。交付税に依存をしない都市部の自治体は地方税の強化を求める動きに集約をされることが予測をされ、地域間で利益が相反する状況も考えられますが、個々の自治体の利害にとらわれない望ましい地方財源確保に向けた議論が進められることを期待しております。
 次に、地方特例交付金と減税補てん債の返済についてでございますが、平成十一年度地方財政対策のポイントの一つは、国の恒久的な減税実施に伴う地方財政の減収補てん措置として地方特例交付金が創設をされたことであります。これは、恒久的な減税が実施されることにより地方税収入などが落ち込むことに対して、将来、税制の抜本的な見直しが行われるまでの当分の間の措置として講じられたものであります。
 端的に申し上げれば、国のたばこ税の一部を地方へ移譲することと合わせて、地方特例交付金により減税影響額の四分の三を補てんし、残りは減税補てん債の発行によって措置するものであります。
 国は深刻な景気低迷などに対応して、経済の再生を図るため、税制改正等を行ってきました。しかしながら、地方自治体の立場からは地方財源を伴う減税などについては自治体運営に大きな影響を与えることから、東京都市長会などを通じて、地方税の減収分に対して適切な財源措置を講ずることを求めてきました。
 昨年十月には地方六団体で税制改正に関する緊急決議を行うなど、要請活動を続けてまいりました。
 特に、昨年十一月に東京都市長会で、このままでは平成十一年度予算が編成できないとして、緊急アピールをいたしました。その内容は、1)個人住民税や地方消費税の充実強化すること。2)景気対策としての減税は国税で行うこと。3)国策として実施するものに対する地方交付税措置は、不交付団体も含めた実質的な財政措置を講ずることであります。
 結果的にこれらの要望活動が実り、制度が創設をされたものと理解をしております。過去には、昭和三十五年、四十一年、四十二年度に臨時地方特例交付金が普通交付税の不交付団体に交付されましたが、それ以来、三十二年ぶりの復活でありまして、特例制度として創設されたものであります。
 平成六年度より実施をされた特別減税の財源措置として、本市では影響額の一部について四十七億円を超える減税補てん債を借り入れております。その償還条件は平成六年度分七億円は三年据え置きで十年償還、平成七年と八年度分の三十億円は平成十六年度の一括償還、ただし、借りかえが可能なものであります。平成十年度分の十億円は三年据え置きで二十年償還となっております。
 今回の措置はあくまでも恒久的な減税に伴う措置として講じられたものでありますので、これが即、従前に発行した減税補てん債についても同様に適用されることを期待するのは難しいのではないか、このように思いますが、今回の措置によって、その糸口ができたのではないかと、このように考えます。
(以下省略)

(松島;注) 編集しなおすに当たり、特例交付金と減税補填債のところもゴシックにしました。特例交付金は臼井多摩市長が東京都市長会の会長だったので実現したものです。今までは普通交付金でまかなわれていたので、多摩市のような不交付団体は国からの交付金がなかったものを、不交付団体でも交付が受けられるようになったものです。以後の多摩市財政に大変寄与したものです。これをなんとか過去の減税補填債の償還にも適用できないか提案したものですが、残念ながら実現しませんでした。想い出深いものです。 (2012年10月記)
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3、平成11年第2回 松島議員と 鈴木市長答弁
1999.06.21 : 平成11年第2回定例会(第3日) 本文
松島議員 一般質問 (新市長への質問)
◯二十二番(松島吉春君)  通告に基づき二問質問いたします。
 一問目は、地方分権と新たな自治、市民協働社会についてであります。
 (イ)前市長の提案した「新たな自治」への新市長の所信をお伺いいたします。
 私は四年前の前回の選挙も、そして今回の選挙も、選挙公報でお知らせしてあるとおり、住民自治と地方分権の推進を選挙公約の大きな柱の一つにしてきました。臼井前市長は昨年、平成十年三月議会の施政方針演説で、以前から私が一般質問などで主張していたことと同様なことと思いますが、以下の発言をしています。
 「二十一世紀まであと二年余りとなりました。新しい時代の黎明化で、わが国は今維新、戦後改革に並ぶ第三の変革期を迎えています。明治以来約百三十年間続いてきた中央集権型行政機構の改革、少子・高齢化の進行、経済の低成長、高度情報化、価値観の多様化、教育改革など、これまでわが国を支えてきた社会経済システムは、構造的な改革の波に洗われています。」との時代認識を示した上で、この年を新たな自治を拓く年と位置づけました。
 この臼井前市長が提案した新たな自治について、私はこの議会で一般質問をして、何を指しているのかとただしたところ、市長は以下の答弁をしています。
 「中央集権制度が制度疲労を起こしているとも言われております。このような中で、自治に対する住民意識、住民生活に対する地方自治の浸透度は必ずしも十分に深まらず、住民が行政を監視し、みずからの自治体を経営していこうとする感覚や、そのためのシステムが十分に機能しなかったなどとの認識に立って、地域における行政の自主性、自立性を高め、個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を目指し、国と地方の役割分担を見直し、従来の中央集権型社会から地方分権型社会への大きな転換の必要性が叫ばれるようになりました。」と述べた上で、以下の発言があります。
 「地方分権推進委員会による四次にわたる勧告が確実に実行されていくことが、地方自治の本旨である住民自治の拡充を促進していることであると認識しています。施政方針におきまして、新たな自治を拓く年と位置づけた背景は、社会が中央集権型から地方分権型へと転換していく中で、市政においても住民自治を基本とした市民の自己決定権の拡充、市民の自己責任に基づく地域社会に果たす役割の拡大など、地方分権改革が明治維新、戦後改革に次ぐ第三の改革として、二十一世紀に向けて新たな時代を切り拓いていくとの観点から、新たな自治との位置づけを行ったものです。」という答弁でした。
 今までの私の説明で、臼井前市長が提案した新たな自治とは、かなり壮大なことだったということは理解できると思います。私なりに要約しますと、地方分権推進委員会の四次にわたる勧告を確実に実行していき、地方自治の本旨である住民自治の拡充を促進する新たな自治を拓きたいということだと理解しています。
 鈴木新市長は、前市長が示した第三の変革期という時代認識と、この新たな自治という提案についてどのような所信をお持ちかお伺いいたします。特に憲法第九十二条でいう地方自治の本旨という難解な問題に対して、かねてからの私の主張と同様に、前市長は住民自治としてとらえた見解について、新市長はいかがお考えかご見解を伺います。
 (ロ)市政の重点課題である地方分権の推進と市民協働社会の創出について。
 臼井前市長は、昨年三月の新たな自治の提唱に引き続いて、ことし三月の施政方針演説では、市政の重点課題に新たに地方分権の推進と市民協働社会の創出を加え、以下のように述べています。
 「市から市民への第三の分権を進め、市民感覚に基づく市政へと自己改革を図ります。具体的には市民との協働、市民への説明責任、都市経営などの視点を踏まえた第二次行財政改善計画の策定に着手する考えであります。」と述べた上で、以下の発言がありました。
 「今日我が国は、中央集権型行政システムを変革する地方分権が進められています。分権型の社会とは、市民の選択と責任に基づき、地方自治体が市民と協働して、自主的、自立的に施策を展開する社会であり、本市が目指すべき新たな自治社会であると考えます。平成十一年度は地方分権の推進と市民協働社会の創出を新しく重点課題に加え、本年を分権・協働元年として積極的な推進を図る考えであります。」と述べています。この発言からも理解されると思いますが、市政の重点課題に地方分権の推進を掲げるだけではなく、地方分権をただ単に国から都道府県の分権、都道府県から市町村への分権ととらえるだけではなく、市町村から市民へといういわゆる第三の分権を踏まえて、市民協働社会の創出を提起し、これを地方分権の一つとして提案していることに特徴があると考えます。
 私も同様の主張をしてきました。地方分権とは、中央と地方が今までの上下主従の関係から対等な関係へと変化していくだけではなく、市役所と市民の関係も変化しなければならないと考えています。従来の市役所が上にあり、市民が下にあって、市民は市役所に要求して、市役所は市民に施策を施すという関係から、両者は対等な関係となり、まさに協働社会への変化が今求められていると考えています。この場合、行政側は公共サービスに全責任があると認識してはならず、公の責任は市民と行政の双方にあるということが前提だと考えています。つまり行政はいわゆるお上であってはならず、公共という概念の独占者であってはならないと考えています。私は議会でも何度か主張していますが、今日官と民、公と私の関係に変化があらわれていると思います。
 戦後は戦前の滅私奉公という考え方が崩壊していくとともに、全く逆の考え方も出てきました。今になって総括してみると、これは滅私奉公の裏返し、つまりメダルの裏表ではなかったかと考えています。つまり民から遊離している公の権力の構造にメスを入れずに、公というものに挑んでいたのに過ぎなかったのではないでしょうか。大切なことは、民から遊離した公権力を絶対視することではなく、より市民に近づけていく努力とそのシステムづくりではないかと今は考えております。そういう意味では地方分権の推進と市民協働社会の創造とは、今までの私の人生の総括でもあります。ですから私は四年前の前回の選挙も今回の選挙も、同様に住民自治と地方分権の推進を選挙公約の大きな柱にしてきております。
 市民のイニシアチブでスタートし、行政がそれに巻き込まれていくという先進国型の住民参加の例が多摩市でも生まれてきています。キーワードは前議会でも述べました自立した市民という概念とNPOだと思います。行政はどこかの時点でもって保護者であり、市民に全責任があるなどとのいわば思い上がった立場から脱却しなければならないと考えています。でなければ近年金融機関が中央政府の護送船団方式のもと自助努力もなく崩壊していったように、地方自治体も中央政府の手厚い護送船団方式のもとに崩壊していき、日本社会に取り返しのつかない打撃を与えるのではないかと危惧しています。鈴木新市長に地方分権の推進と市民協働社会の創出につき、その所信をお伺いいたします。
 (以下省略)
◯市長(鈴木邦彦君)  それでは、松島議員のご質問にお答えをいたします。
 一の(イ)についてお答えいたします。
 戦後五十年間にわたる中央集権的な現行の地方自治制度は、国の計画的かつ効率的な資金配分により、国の標準化された画一的な行政サービスの向上と社会資本の整備を急速に進めた一方、地域における行政の自立性や自主性、市民感覚に根ざしたまちづくり等の視点が生かされることなく、現在の多様化、個別化する社会の要請に十分に機能しなくなり、中央集権型社会から地方分権型社会への大きな時代の転換期に差しかかってると認識しております。このような変革期の中で、勇気を持って新しい時代にふさわしい住民自治を基本とし、市民の自己決定権の拡充と自己責任に基づく人と人とのつながりを大切にした、温もりのある個性豊かなまちづくりを目指してまいりたいと考えております。
 次に、(ロ)にお答えいたします。
 地方分権の推進は、住民自身による地域の自己決定権の拡充であり、地方分権を市民にとって価値あるものにするためには、第三の分権である行政から市民への分権、市民の目線に立ち、市民力を最大限に生かした行政と、行政と市民が対等なパートナーショプで結ばれた協働社会の創出が不可欠であると考えております。そのために、行政と市民や非営利団体との間をコーディネートする中間支援組織である仮称NPO支援センターの設置運営の検討についても、新たな試みとして市は呼びかけに応じ、市民みずからの力でNPO支援センター運営検討委員会を立ち上げ、行政との協働作業として具体的な検討を始めております。今後このような試みの積み重ねが、新たな市民と行政との関係を構築し、市民の選択と責任に基づく協働の第一歩であると考えております。
 次に、(ハ)にお答えします。
(以下省略)
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4、平成12年第1回 鈴木市長と 松島議員質問
2000.03.01 : 平成12年第1回定例会(第1日) 本文
鈴木市長 施政方針
◯市長(鈴木邦彦君)  引き続きまして、市長施政方針を行いたいと思います。
 平成十二年第一回多摩市議会定例会の開催に当たり、私の施政運営に対する所信を申し述べまして、市議会並びに市民の皆様のご理解とご協力をお願いいたします。
 今、私たちは新たな千年紀を歩み始めました。この歴史的な節目に臨み、私は内外の英知と力を結集し、公約である「TAMAを変える五十の提言」の実現を通して、輝く多摩の未来を切り開いていく決意です。二十一世紀に向けて最も大きな課題は、美しく豊かな地球環境を守り、はぐくみ、後世に引き継いでいくことではないでしょうか。便利さになれた今の生活から、時代の針を少し戻す勇気と決断が強く求められています。私は市長としてリーダーシップを発揮し、市民と協働して人が地球と共存する「なつかしい未来」のまちづくりに全力を尽くしてまいります。
 (中略)
 次に、公約に基づく重点課題と、その主な対応について申し上げます。
 一点目は、「感動市政と新たな行政改革、地方分権と市民協働の展開」についてです。
 市民感覚を大切にした心で感じて動く市政を基本に据え、市役所はサービス業であるとの観点から、新たな行政改革プランの推進に組織を挙げて取り組みます。
 「組織は人なり」と言われますが、職員の意識改革を含めた抜本的な行政改革の手法として、ISO9001の認証取得に取り組みます。
 また、開かれた市政の一層の発展と市政に対する市民の信頼の確保のため、福祉オンブズマン制度を導入するとともに、新たな情報公開制度の制定を進めます。
 さらに、市民にわかりやすく、簡素で効率的な市組織に再編し、組織を削減するとともに、定員管理の適正化や公開制を含めた庁議制度の改正などに取り組みます。
 また、外郭団体の自主・自立性を促進するため、多摩市文化振興財団への補助等を見直します。
 一方、市から市民への「横の分権」を進め、市民の選択と責任に基づく協働のまちづくりを展開します。具体的には、旧西永山中学校跡地施設においてNPO支援センターを開設し、市民主体の運営を行うとともに、愛宕コミュニティセンターを開館し、地域の運営協議会に運営をお願いしてまいります。また唐木田周辺地区のコミュニティセンターについては、建設用地の選定段階から、地域の自治会等の代表者や公募市民による選定検討委員会で検討し、その後、建設段階では、これまでの協議会方式に市民ワークショップ的手法も取り入れて、地域住民の合意形成を促進してまいります。
 さらに、女性問題の解決と男女平等の社会の実現を目指して、「女と男がともに生きる行動計画」を市民参画を得て改定するとともに、TAMA女性センターの事業の充実を図ります。
 二点目は、すべての世代が「安心・健康」なまちづくりです。
(中略)
 次に、以上の点を踏まえて取り組んだ、平成十二年度予算の基本的な考え方について申し述べます。
 本予算は、私が市長として編成した初めての年間予算であり、公約に掲げた「TAMAを変える五十の提言」の実現に向けた第一歩であるとともに、第四次総合計画の策定と諸施策の道筋を明らかにする重要な予算であります。
 予算編成に当たっては、昨年九月、編成方針の通達を行うとともに、予算編成における行財政の改善の徹底を助役を通して指示を行いました。財政の厳しいこの中で、私は十二年度を「市民とともに選択し、創造する年」と位置づけ、分権型社会の潮流のもとでみずからの選択と責任により「あれか、これか」を選択し、限られた財源を重点的に配分する姿勢を基本とします。
 市税が三年連続してマイナスとなる非常に厳しい財政状況のもとで、新たな行財政の改善に取り組み、「歳入に見合った歳出」への財政構造の転換と職員の意識改革を行うとともに、新たに必要な事業や充実すべき事業については積極、果敢に取り組み、市民の出資金を一円でも多く市民に配当していく考えで、予算を編成してまいりました。その結果、一般会計予算の規模は、前年度とほぼ同額の五百六億一千万円、特別会計を合わせた予算総額は七百一億三千九百万円で、前年度比三・四%の増となっています。
 行政改革として見直した成果は約八億円となっておりますが、さらに予算の執行に当たっては、委託費や需用費等について一律五%削減等を指示し、「これでいいのか」という視点を職員一人一人が持って事務事業の内容や執行方法を再度見直し、最小の経費で最良の市民サービスを円滑に提供できるよう万全を期してまいる考えであります。
 間もなく二十一世紀への扉が開かれます。時代が大きく変わろうとしている今、皆さんとともに生まれ、生きていることに、私は運命的な出会いを覚えるとともに、共通する使命と役割があるように思えます。
 今、地球自身も地球上の生物も病んでいます。今こそ私たちは物質的な豊かさを追い求めてきたこれまでの価値観を払拭しなければなりません。そして二十一世紀にふさわしい新しい行動規範を打ち立てることが必要です。そのためには人間本来の持つ直感や感性を信頼し、「すべてを捨て去ることから新しい発想を生み出す」勇気も大切です。人はもっともっとみずからの感性と意識を高め、「自然」と「いのち」を愛し、慈しみ、いかなる困難があろうとも、母なる地球と共存して生きる道を進まねばなりません。
 私は市長としてまちづくりの先頭に立ち、市民の皆さんとともに心と力を合わせて「なつかしい未来」の多摩を創ってまいります。二十一世紀の多摩市は、「市民」と書いて「私」と読んでいただきたいわけですが、「市民が主役のまち」として発展していくことを確信しています。国と地方との関係での分権と同時に、自治体と市民との間の分権も進めていかなければなりません。そのため私は、平成十三年の市制施行三十周年に向け、市民参画を得て(仮称)多摩市民自治基本条例を制定していく考えです。
 今、私が危惧することは、国家や社会が信じられなくなり、自分や家族だけの幸せを守ろうとして自己中心的な考えになってしまうこと、環境や暮らしが悪くなり、このままでは将来大変なツケを払わねばならない、そのことを薄々感じながらも、直視することが怖かったり、余計な荷物を背負い込みたくないために目をつぶってしまっていること。私は、今こそ市民一人ひとりが自覚と責任を持って行動を始める時期に来たと考えます。
 厳しい社会状況はまだ続くと思われますが、私は、この多摩の人とまちを愛し、常に高い理想を掲げ、勇気と情熱を持って挑戦し、市民福祉の一層の向上に邁進する決意です。市議会、市民、民間、NPO、ボランティア等の皆さん、ともに心と力を合わせて協働し、幸せと希望に満ちた輝かしい二十一世紀の多摩を切り開いていこうではありませんか。
 最後に、重ねて市議会並びに市民の皆様のご支援とご協力を心からお願い申し上げまして、平成十二年度の施政に関する私の所信表明といたします。
 よろしくお願いいたします。

(松島;注)
施政方針の第1番に、「一点目は、『感動市政と新たな行政改革、地方分権と市民協働の展開』についてです。」を挙げ、「一方、市から市民への「横の分権」を進め、市民の選択と責任に基づく協働のまちづくりを展開します。」と述べているのに、ここでは「自治基本条例」に触れずに、最後にとってつけたように「自治基本条例」の制定を約束している。
 これはその後、自治基本条例制定作業に最後まで影響を及ぼしてしまった。つまり、新たな自治での、市から市民への横の分権を進めるための基本ルールとして、自治基本条例が認識されなくなり、何のための自治基本条例かが見失われていくことになる。
臼井市長はこの1年前に、原田議員の質問に対して、「ご提案の市民参加条例、自治基本条例等の取り組みについても、今後の地方分権の理念に裏づけられた住民自治を担保する一つの手法として研究してまいりたいと考えております。」と答弁しており、その1ヵ月後の市議選の結果生まれた、市議会最大会派「市民クラブ」の政策要求の1番目に掲げられた自治基本条例制定というこれまでの流れと違う流れで自治基本条例制定が始まり、何時しか「新たな自治」だとか「市民への横の分権」という言葉が忘れ去られていった。
「新たな自治」とは、05年の今日の言葉で言うと「ガバナンス」(市民協治)という言葉に置き換えられるだろう。ガバメント(統治)からガバナンス(協治)へという世間の流れの最先端を行っていた多摩市が、ガバメント(統治)の時代に先祖がえりする一歩がこの施政方針だったと思う。

2000.03.03 : 平成12年第1回定例会(第3日) 本文
松島議員 一般質問
◯二十二番(松島吉春君)  二十二番の松島です。通告に基づき第四次総合計画と組織再編案について質問いたします。
(中略)
 二、組織再編の第一次報告書について。
 (イ)市民協働部の新設について。
 第四次総合計画を今言ったようなシステムとしてとらえれば、政策の第一の柱から市民協働部の設立という組織再編案は出てこないはずです。なぜならば、そのことはまさに全庁的な問題だからです。考えられる組織は市長直属で、助役が室長を兼務する組織で、職員は若手で将来が期待される職員を二、三名配属すれば事足りると思います。ところがコミュニティや消費生活など旧来型、官民協働型の市民協働を担っている現在の生活文化部を母体にして市民協働部をつくろうとしているとしか思えません。生活文化部では、市民協働のため、市民団体の事務局がどれだけあり、事務局員がどれだけいるのか。まさか今後ますます市役所の中に市民団体の事務局をふやすことや、役人が市民団体の事務局を担うことが分権の時代の市民協働ではないでしょう。多摩市では新たな自治を拓く。市民への分権を含む地方分権の推進と市民協働を言っています。しかしお役人はそのことの革命的な意味に気づかないのか、あるいは気づいているがゆえにか、自覚ないままに市民たちより俺たちが上だとばかりに自己権益の保護に走る傾向が一部に見受けられます。また一般的にもそういう傾向があります。
 生々しい例は避けますが、昨年二月に出された多摩市非営利団体との協働に関する基本指針からもそのことが読み取れます。基本指針の基本指針である第一章では、行政は市民活動に直接関与することなくとか、行政の公平性や平等性を追求する理論を団体運営に持ち込むことになり、行政が関与することの弊害の方が大きいなどと書かれています。しかし具体論になると、この指針が揺らいでしまいます。団体の設立のときにまで補助金を出すことまで検討するとしています。多摩市は設立時に関与した市民団体の現状からして、設立時からの関与は避けるべきとの教訓を得ているはずです。設立時から補助金を出そうという発想から、従来どおり補助金を使って市民協働して、お役人が市民団体の上に君臨したいという発想が透けて見えてきます。
 NPO法と地方分権法成立後の市民協働とは、言葉は同じでも従来の市民協働と革命的な変化があります。多摩市としても監査委員だけではなくオンブズマンの制度をつくろうとしています。例えば従来の市民協働だと、補助金の交付を受けている市民団体が行政に不信を持ち、監査委員に住民監査を申し出るようなことがあるとすれば、行政は補助金のカットや裁量行政でねちねちといじめれば、それで一件落着でした。そもそも従来型市民協働で補助を受けている団体は、監査委員に訴えるなどという恐れ多いことは考えもつかなかったのです。しかしこれからは違います。従来の市民は公共サービスを受ける顧客にしかすぎなかったかもしれません。これからは市民は市役所同様に公共サービスを提供する主体でもあるのです。既に多摩市ではこの革命的な変化があちらこちらで起きています。今後は国と地方の係争が想定されていると同様に、行政と市民団体の係争も想定されるほどに、市民は公共サービスの提供主体となっていくのです。いや、もう既に多摩市民は公共サービスの提供主体となっていると言っても過言ではないと思います。
 ところが、報告書では今の生活文化部を母体にして市民協働部をつくろうとしているとしか考えられません。これでは旧来型の官民協働型の市民協働をそのまま引きずってしまい、第四総合計画が意図する市民への分権、行政と市民との対等の関係が生まれてこなくなる可能性が大きいだけではなく、また全庁的な取り組みにもなりません。私の見解に対する市長のご見解を伺います。
(以下省略)
                                      
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