四国お遍路の旅(序章)


 2006年9月、四国八十八ヶ寺のすべてを1度で巡る遍路旅を行った。通常、街道歩きに興じているが、今回は歩きではなく、クルマ利用。しかも10人乗りのジャンボタクシーを利用したツアーに参加したのである。月曜スタートの10泊11日、行こうと思っても中々実行できるチャンスは少ない。最終的に掛かった費用は約38万円、お遍路という言葉の響きとはイメージが異なる一生に何度もできない贅沢な旅だ。


空海
弘法大師(空海)
 

発心、お大師様に呼ばれて

 かなり前からお遍路の旅に出る計画をしていたわけではない。ウォーカーとしていずれは歩くときが来るだろうとは思っていた。しかし、2006年の6月くらいに急に行きたくなり・・・。発心(ほっしん:心を起こすこと)は突然やってくる。自分のホームページ掲示板で2006年6月3日に遍路への興味があることを書いている。その前から転職しようとは考えていたが、その時点では転職先は決定してなかったんですけどね。

 今回、お遍路の旅に出ることが必然だったのかは分からないが、お遍路に行こうという気持ちになるのは、お大師様に呼ばれているということらしい。11日間で38万円を考えれば、ヨーロッパ周遊だってできそうなものだが、四国遍路なのである。NHK教育テレビの趣味悠々「四国八十八ヶ所はじめてのお遍路」のテキストには「人生に一区切り」とある。バブル期に1度の面接だけで一部上場企業に入社して16年半、転職というのは確かに人生の一区切りではある。

 日頃歩き旅に出ているせいか、お遍路に行くということは周りからあまり驚かれず、むしろ「何で歩かないの?」という質問が多い。ある意味ウォーカーとしての一つの地位を得ているともいえる(笑)。でも、よく考えてみてもらいたい。街道歩きのときのように3日で100キロ歩くことは自分にとっては日常のことでも、そのペースで30日歩いても1000キロ。四国遍路の通し打ちとなると1400キロとも1450キロとも言われる距離を歩き続けるとなると、まだ修行が足りないというか、途中で膝を痛めそう。だいたい40日を越える連続した休みなんて・・・。今回の転職、空白期間ゼロとなったため、歩き旅は無理。でも、お大師様に呼ばれて行くというのも縁。何かが待っているはず。

 お大師様との出会いというと大袈裟だが、2005年のゴールデンウィークに上野松坂屋で開催された「弘法大師御誕生所・善通寺展」の中で「お砂踏み」を体験。これは八十八ケ所の各霊場寺院内の砂を入れたお砂袋を踏み、その前に掛けられた御本尊の掛軸を礼拝することで、巡礼したのと同じ功徳が得られるというものであり、30分で88ヶ所参りができるというもの。いや、それより前の3月の時点で、講談社の「週刊四国遍路の旅」の定期購読を申し込んでいる。「日本の町並み」も全刊購入したが、定期購読したのは「四国遍路の旅」のみである。

 この頃、既に転職は考えていた。自分にとっての進むべき道を求めていたのである。ちょうどそんなタイミングのとき、あるコンサルタントの方を通してある会社への誘いの話があった。そのときは労組の書記長という立場もあり、保留とした。中間経過は省略するが、結局、就職活動することなく、その会社に転職することとなった。今回の旅はお礼参りという意味合いもあった。


参加形態の選定

 お遍路に行こうと決めても、どのようにすればいいのだろう? 移動手段としては、バス、タクシー、マイカー、レンタカー、バイク、自転車、そして徒歩。徒歩は日数が掛かるので、野宿でもしない限り一番お金が掛かるとも言われる。いや、一番お金が掛かるのは、タクシーの個人利用だろう。タクシーの場合、人数により個人負担は変わる。

 廻り方であるが、一般的には第一番札所である徳島の霊山寺から四国をほぼ時計回りで巡り、第八十八番札所である香川の大窪寺までを拝礼するのだが、必ずしも順番通りに廻る必要はない。一気に全部を廻ることを通し打ちという。県別に廻るのを一国打ち、何度も分けて行うのは区切り打ちと呼ばれる。自分らしく歩き遍路で10日間で歩けるところまでというのも考えたが、絶対に続きの旅に行きたくなってしまうのでこれは危険だ。

 また、全くの初心者であるので、まずは作法なども学ばなくてはならない。一人で独学してというよりもツアーに参加して先達(せんだつ)と呼ばれるお遍路のベテランに色々と教えてもらいながらの旅を選んだ。

お世話になったジャンボタクシー

 ネットで色々調べると様々なタイプがあるが、88ケ所を一度に巡るおあつらえ向きのツアーもあることが分かった。ある会社のツアーは土曜出発で高野山なしなら7泊8日、参加料金も20万円を割り、祝日がある週なら4日休めば参加できるというものもあった。

 自分が最終的に選んだのは、株式会社旅ネット四国のツアーである。10人乗りのジャンボタクシーを利用したもので、運転手は先達の資格を持つ。宿泊は個室を希望できる。月曜出発で10泊11日。普通に会社勤めをしていると参加は難しい。私の場合、土・日・祝日を含め、有給休暇を8日使用(それでも最終的に未消化が20日ほど残りました)。最初と最後は平日の方が混み合わないだろうし(ただし、往きの羽田へは通勤ラッシュの中なので注意が必要)、泊まるホテルや旅館もネット検索で紹介されているようなところが多く、高野山では宿坊体験もできる。

 時間的にも多少余裕があるくらいの方がいい。参加したツアーでは、朝食後、一旦部屋に戻り、トイレに行ったり歯を磨いたりという余裕はあった。他のツアーでは白装束のいでたちで朝食をとり、そのまま出発というのも見受けられたが、自分はそれは苦手なのである。


費用

 料金は、けっこうまともなホテルなどに10泊することもあり、基本は269,000円。一人部屋を希望すると10泊分でプラス2万円。この料金には、宿泊と夜・朝の食事、タクシーでの移動、参拝する手段としてのロープウェイの料金が含まれる。高松空港集合・新大阪または伊丹解散で往復の交通費は別(旅行会社に頼むことも可)。お昼の食事代は自分持ちだが、基本的にはうどん屋に入るのでそれほど掛からない。

巡礼用品費用
品名 単価
白衣袖付背文字入り 2,100 1
輪げさ 1,575 1
輪げさ止 525 1
山谷袋 1,260 1
札入れ巡礼セット 2,100 1
線香 367 2
巡礼ローソク 262 4
持鈴 3,150 1
真言念珠 4,200 1
金剛杖 1,312 1
納経帳(上) 5,250 1
御影帳カラー写真入 2,100 1
合 計 25,354  


 遍路用品の手配も旅行会社経由でできるが料金は別。絶対に白装束でなければダメという訳でもないが、せっかくなんで形から入ると線香や納経帳なども含め2万5千円ほど掛かる(右表参照)。ズボンは白っぽいものを事前に別途購入している。

 納経帳であるが、週刊「四国お遍路の旅」の定期購読の特典として付いていたもの(左下写真の右端)は、紙の材質が悪く、墨で書いたり朱印を押した時に乾きにくいのでお寺での評判が悪いという情報を得ていたので、五千円出して良い物を買い求めた。大きさも違う。


 金剛杖は高野山の奥の院に置いてきた。忘れた訳ではない。記念に持って帰ることもできるが、持っていたらたとえ邪魔だと思っても捨てるのも困るだろうと思い奉納という方を選んだ。半分以上の人は88番の大窪寺か高野山に奉納してくる様だ。

 形から入るなら菅笠もとなるが、車移動の場合はかえって邪魔になるかもしれない。

 他に納経帳への朱印が1ケ寺300円、88ケ寺プラス高野山だと26,700円になる。それに各寺の本堂・大師堂へのお賽銭も最低88×2+2=178回分必要となる。日頃、お賽銭は百円が多いが、今回は5円を基本とした。

 温泉場でのマッサージなどちょっと贅沢もして、最後にお土産代を含めると総額約38万円となった。

 この旅ネット四国では特典として、「四国霊場八十八ヵ寺巡り 日曜遍路」という1,600円の本も申し込み後、事前に送られてくる。これは巡礼中常に持ち歩いていた。読経の際に利用する冊子や納め札100枚、それに宿泊先のパンフも送ってくれ、旅の気分が高まる。


行程 

 旅ネット四国では、修学旅行を思い出すようなA5サイズの旅のしおりのようなものを事前に送ってくれる。それも本人用と家族用の2冊。持ち物のチェックリスト、行程表には宿泊先の電話番号なども記載されている。宿泊先を変更することは難しいのだろうが、行程との拝礼するお寺の順番は状況により変わる。御朱印を頂けるのはたいてい朝の7時から夕方の5時まで。御朱印を頂くには、それなりに時間が掛かる。バスツアーなどとかち合えば当然遅くなってしまう。

 今回、台風接近などがあり、ロープウェイを利用したり山道を通るところを先に廻るということがあったので順番は当初の予定よりも変わった部分が多い。しかし、最初が第一番札所で最後が第八十八番札所であれば、問題ないと思った方がいい。参加前は全部順番どおり廻りたいと思ったが、はっきり言って途中の順番など覚えていない(笑)。スタートから2日目の午前中の14番までと最後の香川県は比較的隣接していることもあり順番どおり巡れた。

 観光も多少なりともできた。下記の行程表では緑文字で示した。日程に余裕のないツアーだと観光などする余裕はないだろう。尤も巡礼が主目的なら観光は余計かもしれないが・・・。自分のように物見遊山の旅でもある人には観光は嬉しい。

期 日 行 程 宿泊先
徳島 1日目
9月11日(月)
自宅−羽田空港−高松空港−発心道−1番霊山寺−2番極楽寺−昼食(こんせんうどん)−3番金泉寺−4番大日寺−5番地蔵寺−6番安楽寺−7番十楽寺−8番熊谷寺−9番法輪寺−10番切幡寺 阿波観光ホテル
(無料LANあり)
2日目
9月12日(火)
11番藤井寺−12番焼山寺−13番大日寺−14番常楽寺−昼食(日愛うどん)−17番井戸寺−16番観音寺−15番国分寺−18番恩山寺−19番立江寺−21番太龍寺(ロープウェイ) 月ヶ谷温泉 月の宿
(天然温泉)
3日目
9月13日(水)
20番鶴林寺−22番平等寺−23番薬王寺−昼食(魚采村)−みろく洞−24番最御崎寺−室戸灯台−25番津照寺−26番金剛頂寺−27番神峯寺−28番大日寺 高知新阪急ホテル
(フィットネスあり)
高知
4日目
9月14日(木)
高知城−30番善楽寺−29番国分寺−31番竹林寺−32番禅師峰寺−桂浜観光−33番雪蹊寺−34番種間寺−昼食(かに極道)−36番青龍寺−35番清滝寺−37番岩本寺−四万十川足摺岬 みさきホテル
(足摺温泉)
5日目
9月15日(金)
38番金剛福寺−足摺観光竜串観光−39番延光寺−40番観自在寺−昼食(舟平)−41番龍光寺−42番仏木寺−43番明石寺−48番西林寺−49番浄土寺−道後温泉からくり時計 ホテル椿館別館
(道後温泉)
愛媛
6日目
9月16日(土)
51番石手寺−50番繁多寺−47番八坂寺−46番浄瑠璃寺−45番岩屋寺−昼食(みどりうどん)−44番大宝寺−60番横峰寺−63番吉祥寺−62番宝寿寺−61番香園寺 今治国際ホテル
(大浴場)
7日目
9月17日(日)
52番太山寺−53番円明寺−54番延命寺−糸山公園(来島海峡大橋)−55番南光坊−昼食(やまびこうどん)−58番仙遊寺−57番栄福寺−56番泰山寺−59番国分寺−64番前神寺 リーガロイヤルホテル
新居浜 (スパあり)
8日目
9月18日(月)
65番三角寺−豊稔ダム−66番雲辺寺(ロープウェイ)−67番大興寺−砂絵−68番神恵院−69番観音寺−昼食(七宝亭)−70番本山寺−71番弥谷寺−72番曼荼羅寺−73番出釈迦寺(奥の院)−74番甲山寺 ホテルニューわたや
(琴平温泉)
香川
9日目
9月19日(火)
金比羅本宮−75番善通寺−76番金倉寺−77番道隆寺−丸亀城−78番郷照寺−常盤公園サン・アンジェリーナ展望台(瀬戸大橋)−昼食(かがわ屋うどん)−79番天皇寺−80番国分寺−81番白峯寺−ところてん本舗(清水屋)−82番根香寺−83番一宮寺 高松国際ホテル
(コインランドリーあり)
10日目
9月20日(水)
84番屋島寺−85番八栗寺−86番志度寺−87番長尾寺−88番大窪寺−昼食(八十八庵)−淡路SA(明石海峡大橋)−高野山へ 遍照尊院 宿坊
(大浴場)
和歌山
11日目
9月21日(木)
高野山(諸大名墓石群・奥之院拝礼・女人堂・波切不動・金剛峯寺・壇場伽藍・大門)−昼食(みやま)−新大阪−新横浜−自宅  

拝礼方法

遍路の旅日記に入る前に参拝方法について紹介します。

水屋 鐘桜 参拝 納経所


 まず、門前で一礼してから境内に入る。手水舎で手を洗い、口をすすぎ、身を清める。一種の禊(みそぎ)の儀式である。作法としては神社と同じである。まず、右手に柄杓を持って左手を洗い、次に左に持ち替えて右手を洗い、再度右手に持ち替えて、溜まっている水ではなく、出てくる水を柄杓ですくい、左の手の平にためた水で口をすすぐ。柄杓から直接口をつけてはいけない。鐘楼があり、鐘を撞いてもいいところでは静かに撞く。よほど人里離れたところでない限り、強く打つのはマナー違反。そして参拝後に鐘があることに気づいても打ってはいけない。出鐘は金が出るにつながる。鐘楼や鐘自体が重要文化財などになっているとつくことはできない。

 本堂へ行き、ロウソクと線香(3本)をあげる。火は持参のライターか種火として用意されているものを用いる。種火用以外のろうそくからもらい火をしてはいけない。風が強いとライターでつけるのは難しい。雨や風のときは先達さんが種火を用意してくれるので有難い。ロウソクや線香は後からの人が火傷をしないよう上の段の中心部からお供えする。そういう気づかいの精神が大事なのだと思う。この辺は順不動なのであるが、納め札を収め札入れに入れる。似たようなものとして写経入れもある。これは般若心経を自分で書き写したものを入れるもの。我々はここまではやらなかったが、功徳があるので各寺に収めて廻るのもいいだろう。納め札には、事前に自分の住所(番地までは書かない)と氏名、数えでの年齢を記入しておく。御接待を受けた場合は、名刺代わりに渡すようだが、クルマで廻るとそういう機会はあまりない。納め札の裏に願い事なども書いていいようだ。この納め札、お四国を廻った回数によりその色が異なる。客寄せに作った習慣のような気もするが、1〜4回目は白、8割以上がこれではないだろうか。今回のツアーで一緒だった人は皆白であった。5〜7回目が緑、8〜24回目が赤、25〜49回目が銀、50〜99回目は金、100回以上となると錦となる。金や錦ともなると功徳があるので、札入れに納められている中から持ってきてもいいことになっている。ただ、よくない霊を呼んでしまうこともあるので注意した方がいいらしい。

 次にいよいよ読経である。唱和する内容は人それぞれというか先達さんによってそれぞれ違うようだ。時間的なものも関係しているかも知れない。我々の運転手さんである出口さんの場合は、開経のことば、懺悔のことばに続き、般若心経を唱え、次にその寺の本尊真言を三回(本堂のみ唱和する)、次に光明真言を三回、次に御宝号を三回唱え、最後に回向を1回唱えるというものであった。

開経のことば
無上甚深微妙法 百千萬劫難遭遇 我今見聞得受持 願解如来真実義
(むじょうじんじんみみょうほう ひゃくせんまんごうなんそうぐう がこんけんもんとくじうじ がんげにょらいしんじつぎ)

懺悔のことば
我昔所造諸悪業 皆由無始貧瞋痴 従身語意之所生 一切我今皆懺悔
(がしゃくしょぞうしょあくごう かいゆむしとんじんち じゅうしんごいししょしょう いっさいがこんかいざんげ)

般若心経(はんにゃしんぎょう)
仏説摩訶般若波羅蜜多心経(ぶっせつまかはんにゃはらみたしんぎょう) ←これも声に出していいます。
観自在菩薩(かんじざいぼさ) ←一般的には「ぼさつ」と読みますが、四国では「ぼさー」と発音します。
行深般若波羅蜜多時(ぎょうじんはんにゃはらみたじ) 照見五蘊皆空度(しょうけんごうんかいくうど) 〜
以下省略

本尊真言(ほんぞんしんごん)
例 薬師如来 おん ころころ せんだり まとうぎ そわか
   観音菩薩 おん あろりきゃ そわか
   地蔵菩薩 おん かかかび さんまえい そわか
   普賢菩薩 おん さんまや さとばん

光明真言(こうみょうしんごん)
おん あぼきゃ べいろしゃのう まかぼだら まに はんどま じんばら はらばりたや うん

御宝号(ごほうごう)
南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)

回向(えこう)
願わくは この功徳(くどく)をもって あまねく一切におよぼし われらと衆生(しゅじょう)と みなともに仏道を成(じょう)ぜん
 
 お四国を一周して約180回これを繰り返す。本堂・大師堂の他に立ち寄ったところで行うことも。宿坊では食事前にも般若心経唱えました。

 大師堂でも同様にロウソク・線香を供え、納め札を納め、読経する(大師堂には本尊が祀られていないので本尊真言は唱えない)。

 本来、最後に納経帳に御朱印を頂くのだが、時間の都合もあり、先達さんが先に納経所へ行き、みんなの分の御朱印を頂いてくる。お寺側も団体の場合は、まとめて出してくれることを希望しているようだ。


では、いよいよ、お遍路の旅日記の本編。発心の道場(阿波・徳島)、修行の道場(土佐・高知)、菩薩の道場(伊予・愛媛)、涅槃の道場(讃岐・香川)の4部に分けてご紹介します。


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