研究開発部門において、各チームは 研究の成果を 試験装置で速やかに確認して、早く成果を発表したいと思っています。
 その思いが強すぎると、新たな試験におけるリスクの十分な検討を怠ったり、対策不十分な状態で見切り発車したり、試験の途中で発生する不具合に対処するために 危険を承知で 不用意な改造をしたり といったことが 起こりがちです。


 私の経験で最もぞっとしたのは、所属部署R部(様々な試験・計測技術で研究開発担当部署を支援する部署)の責任者として現場を巡回していた時のことでした。
 高温高圧の試験装置がある試験室に 試験担当者が出入りしているのを見かけました。装置は停止しているのだろうと思い、担当者が操作している制御盤を見ると、高温高圧の状態で稼働していることが分かりました。その時の装置内部の液体の温度は180℃、圧力は1MPa(大気圧の十倍の圧力)でした。


 主担当に「人が出入りしているけど、大丈夫?」と聞くと、「温度管理しているから大丈夫です」と言うので、「センサー不良や制御不良時の対策は?」と聞くと 口ごもるので、制御室側から強化ガラス越しに装置を見てみると 異常圧力発生時に作動するリリーフ弁の前に 手動弁が装着されていました。
 「なぜ リリーフ弁の手前(高圧側)に 手動弁があるの?」聞くと、「リリーフ弁から 少し漏れがあり 正確な試験ができないので、漏れが無いよう 手動弁を手前に装着した」とのことでした。


 装置は 安全率2倍の2MPaの耐圧で設計されていて、2MPaの耐圧試験もクリアしている ということでしたが、センサーや制御の不良や操作ミスなどが発生して、内部温度が220℃になれば 内圧は耐圧を越えるし、400℃近くまで上昇すれば 耐圧より桁違いに高い圧力になり得る状況でした。


 この研究チームのリーダーは、能力が高く 推進力にも卓越したものをもっている方でしたが、安全管理は不得意でした。研究開発では、管理に不向きな人がリーダーとして研究開発を推進することがよくあります。
 だからと言って、試験の内容やリスクを把握するための専門知識を有していない安全課に、その試験における安全管理全般を任せるようにしたら、上述のような “ぞっとする事例” が数多く出てくるようになるでしょう。


 だからこそ、安全課による 安全確保ための考え方・仕組み・ツールについての指導 のもと、早く成果を出したい研究開発チームのリーダーに 安全管理においても責任を持たせて、安全課では把握することが困難な リスクをあぶりださせて対策させる ようにし、さらに それらの チームを束ねている部署・部門の長が 安全管理者として責任を持つ仕組み になったのだと あらためて理解を深めることにつながった ぞっとするできごと でした。


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