K地区では走行可能な機械(サイズは中型または大型トラックくらい)が構内を移動することがあります。従来は、試作品の機械を移動する場合、各研究開発チームの責任で対象走行機械の移動方法を決め、安全課の了解を得た上で 構内を移動させていました。
 試作機で暴走等の可能性が懸念される場合やオペレーターが初心者の場合等は道路を封鎖して移動が行われていました。


 ある時、市販の機械と試作機との比較のため、借りてきた量産機(市販の機械)を構内で移動しようとしました。サイズも中型トラック程度なので 誘導員を付けずに ベテランオペレーター一人で 移動を行いました。
 移動のやり方については、ルール通り安全課の担当者の了解を得ていました。


 ところが、同様の移動を数ヶ月後にやろうとしたら、同じ担当者から「“前回のやり方はダメ”と課長に叱られた、これからは誘導者(機械の前後各1名)と機械の移動先の交通誘導員(1名)を配置してください」と指示がありました。
 そしてそれが、危険予知やリスクアセスメントの明示もなく、翌月の安全委員会で正式のルールになりました。


 駆動系・ブレーキ系等のハードウェア・ソフトウェアを改変した試作機の場合は機械的破損やソフトウェアバグによる暴走も懸念されるので、毎時数十kmの速度が出る機械の前後に誘導者を配置するということは重大な事故につながりかねません。
 再三にわたって安全課課長にどんな考え方なのか?、危険予知の結果は?、リスクアセスメントは? と問いましたが、「このルールでやります」の一点張り、また、無応答でした。
 1年以上にわたる問いかけで、ようやく「リスクアセスメントは無い」と返信だけは ありました。


 「装置の導入時や新たに試験を行う場合はリスクアセスメントを!」、「作業前には危険予知を!」と指導している安全課課長が、リスクアセスメント・危険予知をせず なぜか 走行機械の移動ルール変更 をしていたわけです。


 このルールに関しては、安全課課長の上司である業務部長を2年がかりで説得して(「変更されたルールに従って 事故が起こったら どう考えても業務上過失致傷・致死ではないですか」と業務部長に有効そうな言い方で訴えて)ようやく 前後には誘導者を配置せず、離れた位置から誘導するというルールに再変更されました(市販の機械を構内移動するのに 4人も要するという事態は 改善されませんでしたが)。


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