第四章1節に述べました通り、K地区における 安全管理の形骸化 を 本社安全推進部は K地区の実態を把握することもなく、「すでに改善されているから問題ない」としてしまいました。


 この判断を、例えば 第一章6節 余談で述べましたマンホール蓋点検時の事例に当てはめてみますと、
 不安全な行動:蓋をはずしたままその場を離れた
に対して、
 不安全な状態を把握することもなく
蓋を元に戻したから、もう問題は解決した
と言っているようなものでした。


 では なぜ 安全推進部部長は、再発防止の常道からはずれた判断・行動をしたのでしょうか。


 第一章1節また第四章1節で述べました2013年度初めの社長からのSLQDCメッセージ発信があった時点で、コンプライアンス違反事例を的確に紹介し続けるコンプライアンス室 のように 事故事例の的確な紹介 を始めたらよかったのでは と思うのですが、SLQDCメッセージ発信時に「α社グループの昨年度の災害件数のうち、歩行中の災害など、現業部門以外の災害が全体の3割を占めている」「これからは間接部門も含め、全員で安全活動に取り組んで行こう」というメッセージも発せられましたので、その方向での “安全推進” 業務で、安全推進部は忙しかった のかも知れません。


 ものごとの軽重 無視問題 に記述しましたK地区での細々とした “歩行の仕方に関する何枚もの看板” や “トイレ出口床の数多くの左右確認シール” の件で、ものごとの軽重判断に異議を唱えた際に、「本社から指示があったので」と 安全課課長が言っていました。
 本社の安全推進部は 指示の一つ として発信したのかも知れませんが、少なくとも K地区では その指示を意識してか、そこに重きをおいた活動をしていました。


 または、もしかしたら、α社グループ内での事故発生で、α社グループ各社の“指導”に追われ、手が回らなかったのかも知れません。
 確かに 2012年以降 毎年のように α社グループ内で死亡事故が起こっていました。死亡事故と重篤な負傷(寝たきり状態)事故だけから算出した災害統計数値(強度率)が 同業他社より かなり高い数値になっていました(注:データを持っているはずの安全推進部に α社グループ内発生事故の 年度別強度率と度数率を 問い合わせましたが、回答は得られず、正確なデータを知ることはできませんでした)。


 悪魔のサイクルという言葉がありますが、本来やるべきことを怠って 不都合なことが起こると その対応に追われ、ますます やるべきことできなくなり悪循環に陥る というものです。
 “できない”状況が続くと、“できない” が “しない” に変質し、そこから抜けるには 大きなエネルギーが必要な状況に 陥りがちです。


 現場・現物・現実・原点から離れた“指導”は、悪魔のサイクルを推進してしまうものですが、それに気づかない状態に、または、気付いていても気付かないふりをする状態に、安全推進部は陥っていたのかも知れません。


 安全推進部部長をはじめとして 安全管理を任務とする方々が、意識の高い安全管理のリーダーまた専門家として 育てられているようには思えませんでしたので、 安全管理のリーダーまた専門家育てていく という 視点の欠如根本的な問題 として あったのかもしれません。
 いずれにせよ、危険な状態に手を打ち 安全を守っていくための “”の 四つ目事実上機能しないものになっていました。


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