第一章1節第四章1節に述べましたとおり、α社トップは「安全(S)→コンプライアンス(L:法令遵守)→品質(Q)→納期(D)→コスト(C)の順番で判断することが大切だ」という安全に関する力強いSLQDCメッセージを発信していました。


 ところが、現実の動きは、K地区安全課のみならず、K地区安全委員会(労働組合含む)・総括安全管理者、本社安全推進部、監査役まで 安全(S) を ないがしろにした対処でした。
 これらの事態は、4節で述べました“リスク”の定義と同様、“安全(S)”は、会社が重大な安全管理責任を問われないことという定義で理解できます。


 安全(S) の次に 重要性が謳われている コンプライアンス(L:法令遵守) の例でみてみますと、コンプライアンスに関する社内通達【5原則】の筆頭が「どんな状況にあっても 誰に頼まれても ルール遵守」というものでした。
 「どんな状況にあっても、誰に頼まれても・・・」というのは、“なぜなぜ”を繰り返して 原点に立ち返り本質に迫る ことを求めた社是に反して「状況判断するな、何も考えるな、ただルールを守ればいい!」と言っているのですから 矛盾しているわけです。


 10年以上前は、会社のためなら 法令違反をしてもよし とする風潮が 社内にありましたので、そんな風潮から脱却するするための一時的なやむをえざる措置としては 理解できました。


 しかし、その指令が ずっと 残っているのは 異常なことですので、通達の改定時(2013年9月)に、
「“ルール”というものの守備範囲は 限定的ですので、“ルール遵守”ではなく、
 “社会の要請への適切な対応”を 第1条として入れるべきではないでしょうか」
という趣旨の意見を提出しました。


 幸い 意見は受け入れられたようで、第1条は「・・・社会からの信頼に 応えなければならない」となり、思考停止一辺倒修正されました。


 余談:コンプライアンス違反事例を的確に紹介し続けるコンプライアンス室


 これらのことから、α社は まだ発展途上で、社長の「安全(S)→コンプライアンス(L:法令遵守)→品質(Q)→納期(D)→コスト(C)の順番で判断することが大切だ」という メッセージを実行できる段階には至っていない ということのようでした。
 社長のメッセージを たぶん誤って忖度し、“人の命を考える” より “会社の利益を考える” という 習慣から 抜け出せていなかった のではないでしょうか。


 余談:“人の命を考える”より “訓練のPRを考える”?
  余談:“人の安全” より “ルールの遵守”

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